大会の開催国、発案国でありながら、アメリカ代表は第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では第2ラウンドで敗退した。
 間近に迫った第2回大会は、その雪辱を晴らすための舞台。王国の威厳奪還に向けて米国内は盛り上がっているかと思えば……
(写真:ベテランの域にさしかかったブライアン・ロバーツはリーダーシップをとれるか)
 やはりアメリカのスポーツファンはこのトーナメントをまだ真剣なものとは考えていないようで、実際には依然として大きな関心は払われていないのが現状だ。
 第1回大会前にはニューヨーカーの82%が「WBCに興味ない」と返答(「ニューヨーク・デイリーニューズ」紙調べ)。大会開幕後もほとんどの試合はケーブルテレビのチャンネルでしか放送されず、「世紀の番狂わせ」と騒がれた韓国対米国戦も深夜の録画放送のみで、実際には誰も見ていなかった。

 そういった無関心の度合いは、第2回が近づいても大きく変わる気配はない。米の新聞やスポーツ雑誌等でも、WBCに関するニュースを見つけるのは非常に難しい。そして発表されたアメリカ代表の候補選手たちを見渡しても、少なくともこれが「最強メンバー」ではないことだけは誰もが断言できるはずだ。

 昨季メジャーの本塁打王ライアン・ハワード、首位打者のジョー・マウアー、サイヤング賞を獲得したティム・リンスカム、クリフ・リー、ワールドシリーズMVPのコール・ハメルズ、セーブ王のブラッド・リッジ、2年前のサイヤング賞CC・サバシア、ジョシュ・ベケット……これら大物たちは軒並み不参加を表明している。
(写真:デレック・ジーターのようなスーパースターの出場は数えるほど)

 すでに自身の名声を確立したスーパースターたちにとって、3月という早い時期に行なわれ、金銭での恩恵も少ないWBCは魅力的な大会ではない。名誉のために利益を度外視して出場しようと思うほど、現時点でトーナメントの権威も確立されていない。基本的に世界大会への熱意が薄い米国内で、WBCが真の意味で根付くのにはもうしばらく時間がかかりそうである。


 [予想メンバー]
 捕手   ブライアン・マッキャン(AJ・ピアジンスキー)
 一塁手  デレック・リー(ケビン・ユーキリス)
 二塁手  ダスティン・ペドロイア(ブライアン・ロバーツ)
 三塁手  チッパー・ジョーンズ(エバン・ロンゴリア、デビッド・ライト)
 遊撃手  デレック・ジーター(ジミー・ロリンズ)
 外野手  ライアン・ブラウン
      カーティンス・グランダーソン 
      グレイディ・サイズモア
 先発投手 ジョン・ラッキー
      ロイ・オーズワルド
      ジェイク・ピービー
      スコット・カズミアー
 救援投手 ジョー・ネイサン
      ブライアン・フエンテス
      JJ・プッツ 
      BJ・ライアン

 ただその一方で、こうしてロースターをじっくり眺めて行くと、各ポジションにイキの良いライジングスターたちがひしめいていることにも気付くはずだ。
 ペドロイア、ブラウン、ロンゴリア、サイズモアらはすでに野球ファンの間では実力と将来性が高く評価されている選手たち。だがメインストリームのスターダムにはまだ到達していない。世界中のチームを相手に腕試しができるこの大会に向けて、彼らはモチベーションも十分であろう。
(写真:デビッド・ライトはドミニカ共和国の一員として出場することになったアレックス・ロドリゲスの代役でメンバー入り)

 そしてそんなヤングガンが中心となってトーナメントを戦った方が、すでに十分な実績を積み上げたベテランたちに命運を託すより、あるいは勝機は高いのではないだろうか。若い彼らはまだ力の抜き方を知らない。経験不足がゆえに他国の無名選手ばかりのロースターをみても侮りはしないだろう。寒さの残る3月開催でも、比較的早い仕上がりで体調を整えてこられるはずだ。
 さらにデレック・ジーター、チッパー・ジョーンズら数人の定評あるリーダーたちに脇を固めてもらえれば、変に浮き足立つ心配も無い。そう考えて行くと、今回のアメリカ代表は確かに「最強メンバー」ではないかもしれないが、WBCを勝つに「最適のメンバー」だとも言えるのかもしれない。

 いずれにしても、WBCの真の意味での成功と発展のために、やはり開催国アメリカの盛り上がりは不可欠である。番狂わせが起こり易い短期トーナメントなのだから、王座奪還は至上命令とまで言うつもりはない。だが少なくとも前回のような予選敗退だけは勘弁して欲しい、というのが大会の盛り上がりを望むものの正直な気持ちである。
(写真:デレック・リーには主軸打者の期待がかかる)

 2年前には松坂大輔が好投をみせ、メジャー行きをより現実的なものにした。それと同じような形で、アメリカの若手選手が、WBCでの活躍を糧にさらに大きなスターダムに到達出来れば、この世界大会の意義もより多くの人に理解されるはずなのだ。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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