群馬ダイヤモンドペガサスは、3日から合同自主トレーニングが始まり、早くも2年目がスタートしました。週5日、9時から15時まで藤岡市民球場で厳しいトレーニングに励んでいます。選手たちはその後、17時から21時までそれぞれの仕事につきます。野球と仕事との両立は肉体的にもかなり大変ですが、これも昨季かなわなかったリーグ優勝、そしてNPBへの道を開くため。疲労はあるものの、選手たちは元気よくグラウンドで汗を流しています。
 さて、球団創設1年目の昨季は後期で優勝し、前期優勝者・新潟アルビレックスBCとのプレイオフをも勝ち抜き、リーグチャンピオンシップに進出することができました。しかし、富山サンダーバーズとのチャンピオンシップでは3連敗と一矢報いることもできないままシーズンを終えました。

 しかし、選手たちは本当に頑張ってくれたと思います。特に後期はチーム内に粘り強さが出ていました。プレッシャーから、最後にミスが出てしまった前期とは違い、崩れることがあまりありませんでした。そして、何よりチームにまとまりが出てきました。前期にはミスに対しても、何も意見が交わされなかったのが、後期では「もうちょっとこうした方がいいのではないか」という意見が出てくるようになったのです。他人のミスについて意見を述べるというのはなかなかできることではありません。それが出てくるようになったということは、それだけチーム全員が同じ方向を向き、まとまってきたという何よりの証拠だと思います。

 山田、NPB復帰への挑戦

 なかでもひときわ成長を感じたのは、山田憲(東海大浦安高−日本ハム−サウザンリーフ市原)です。昨季は全72試合に出場し、打率.384、107安打、32打点という好成績で首位打者を獲得しました。一度はNPBにまで上り詰めた山田ですから、彼本来の実力からしてみれば、この成績は当然といえば当然です。しかし、著しい成長なくしてこの成績はなかったでしょう。

 私が彼を初めて指導したのは群馬入団前のクラブチーム時代でした。その頃の彼には「自分は元プロなんだから、何も言われなくてもやれる」という驕りがどこかにあったような気がします。しかし、群馬に入団してからというもの、野球に対する姿勢が徐々に変わっていきました。

 その第一歩だったのが昨年、ちょうど今頃に行なわれた宮崎でのキャンプでバッティングフォームを変えたことでした。それまでの山田は左足を大きく上げたスタイルでしたが、リズムを崩されたり、うまく間がとれないなどの問題を抱えていました。そこで私は自分が現役時代にすり足だったこともあり、「こういうスタイルもあるんだぞ」とアドバイスしたのです。とはいっても、決して強制はしていません。「(足を)上げて打てないのなら、試してみてもいいのでは?」という軽い感じで言ったに過ぎませんでした。どうするかは本人次第ですから、それ以上は言いませんでした。すると、山田は自らすり足打法を練習するようになったのです。彼はもともと飽きっぽい性格なのですが、次第にしっくりといったこともあるのでしょう。きちんと継続して練習したことで、今ではすっかり自分のものになっています。

 こうした新しいことへのチャレンジがその後の彼の成長を促してくれたのかもしれません。クラブチーム時代は練習でもほとんど創意工夫が見られなかった山田ですが、今では自ら課題を挙げ、「こういう練習がしたい」「明日からはこういう部分を強化していきたい」と自分でプランを立て、言いにくるようになりました。

 もちろん山田の最終的な目標はNPBへの復帰です。彼の売りは走攻守、三拍子そろっているということ。特に走塁は、西岡剛(千葉ロッテ)や川崎宗則(福岡ソフトバンク)ほどの俊足ではないものの、ピッチャーのクセやモーションを盗んで走れる器用さを兼ね備えています。

 とはいえ、全体的にレベルアップを図る必要はあります。特に守備と打撃については、もう一つ上のレベルに達しなければNPBへの復帰は難しいでしょう。そこで今季は二遊間を組む青木清隆(前橋育英高−大東文化大)とそっくりそのままポジションチェンジをさせ、山田をセカンドにコンバートさせました。彼はショートの他にサードもできますので、セカンドが加われば、3つのポジションをカバーすることができるようになります。そうすれば、それ自体が彼の武器となり、NPBへの道を広げていくことになると思うからです。本人もセカンドというポジションに興味を持ったようで「楽しい」と言っています。私にもいろいろとアドバイスを求め、貪欲にチャレンジしていますので、セカンドでも心配はいらないでしょう。

 彼にとって今年は勝負の年。本人も「今年がダメなら諦める」というくらいの覚悟で臨んでいるようです。シーズンを通して、彼がどんな成長を見せてくれるのか、今から非常に楽しみです。

 努力する才能あふれた志藤

 また、若手では高卒2年目の志藤恭太(山梨・市川高)も期待している選手の一人です。志藤は昨季、7月4日の新潟戦で初のスタメン出場を果たしたものの、翌日の富山戦の初回、野原祐也選手(阪神)の強烈な打球が当たり、左鎖骨を骨折。結局、シーズンを棒にふってしまうという不運に見舞われました。

 しかし、僕としてはケガをしたことがプラスに働いているように感じられます。というのも、試合に出られない期間、一生懸命にジムに通って鍛えたおかげで体がひと回り大きくなったのです。加えて、オフにもきちんとトレーニングを積んできたのでしょう。今も、非常にいい動きをしています。

 彼の最大の武器は「努力する才能」です。若手の中には飽きっぽく、持続性がない選手が少なくありません。しかし、彼は地道にコツコツと努力のできるタイプで、ガッツも根気もあります。リーグ随一の二遊間を誇る山田、青木の中に割って入れるくらいの守備力を持てるようになれば、面白い存在になるのではないかと期待しています。

 こうした若手の台頭もあり、今季は昨季以上にチーム内での競争が激しさを増すことでしょう。特に外野は井野口祐介(桐生商高−平成国際大)や丹羽良太(中京大中京高−中京大−NAGOYA23)、遠藤靖浩(土浦二高−成城大)、小西翔(高田高−慶応大)に、社会人として経験豊富な新人の鈴木伸太朗(広陵高−立正大−富士重工業)が加わります。たとえ2年連続打点王の井野口でさえ、レギュラーが約束されているわけではありません。選手にとっては非常に厳しい状況ですが、こうした層の厚さがチームの底上げにつながり、個々のレベルアップを促進させてくれることでしょう。


澤井良輔(さわい・りょうすけ)プロフィール>:群馬ダイヤモンドペガサスコーチ
1978年3月9日、千葉県出身。銚子商業では3年時に春夏連続で甲子園に出場し、春準優勝の立役者となった。そのバッティングセンスはプロも注目。全国屈指の強打者として名を馳せていたPL学園の福留孝介(現カブス)と比較されることも多く、「西の福留、東の澤井」と言われた。1996年、千葉ロッテにドラフト1位で指名され入団。しかし、なかなか1軍に定着することができず、05年オフに戦力外通告を受ける。その後はクラブチームでプレーしていたが、昨季より群馬のコーチに就任し、本格的に指導者の道を歩み始めた。


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 今回は群馬・澤井良輔コーチのコラムです。「目指せ! 盗塁100」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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