【優勝争いの行方】

 ひいき目を抜きにしても、大会前半では日本と韓国の安定した強さが際立っていた。そして宿敵同士の直接対決の2、3戦目を続けてものにした韓国が、決勝トーナメント開始時点で大会ベストチームであることに異論は少ないだろう。
(写真:日本はイチローの打撃がポイントになる)
「制球の良い投手を揃えた試合巧者」という点で日本と韓国はほぼ同タイプのチーム。しかしパワーと勝負強さで韓国の方が明らかに上で、日本相手の2勝はどちらも接戦をものにした勝利だったがゆえに、より強靭な強さを印象づけた感がある。第2ラウンドの最終戦では勝ったが、日本からすれば、第1戦のように立ち上がりから明白な差をつけない限り、決勝での勝利は難しいかもしれない。

 いずれにしてもアジアの両雄のレベルはかなり高く、投手力が整備されていない早い時期の戦いに最も適していると言える。アジア勢が2回連続でWBC制覇を飾る確率は決して低くない。

 ただ、怖いのは粗さの目立つベネズエラよりも、やはりアメリカ。スケールが小さいゆえに小技の効く今回のアメリカ代表のプレーは、アジアの野球に近い部分もあり、韓国と日本にとってもやり易い相手ではない。

 劇的な形で決勝トーナメント進出を決めたアメリカが、けが人続出の不利を乗り越え、この大会に照準をあわせて来たアジア勢を連破できるかどうか……? それこそが今後の戦いの最大の見どころとなる。
(写真:デビッド・ライトのサヨナラ打でアメリカは決勝トーナメント進出を果たした)

【嬉しい誤算】

 WBCの最大目標は「野球をよりグローバルなスポーツにすること」。その視点で考えると、戦前はまったくのノーマークだったオランダの快進撃は今大会最大の収穫と言えたかもしれない。

 第1ラウンド初戦で優勝候補のドミニカ共和国に勝利した時点でも歴史に残る快挙だったが、続いてプエルトリコにも善戦し、さらにエリミネーションゲームで再びドミニカを破って奇跡的な第2ラウンド進出。その試合後にオランダ代表監督ロッド・デルモニコがみせた歓喜の涙は、WBC史に残る名場面として語り継がれていくはずだ。

 プレースタイルはアジア野球によく似た守備優先型。この時期のトーナメントでは制球の良い投手&固い守備が有利なことを改めて証明した上に、決して力を出し惜しみしないハッスルプレーも爽やかだった。

 無気力なアメリカ、慢心したドミニカ共和国、逆に自身に重圧をかけ過ぎの日本などと比べ、「野球は楽しむもの」という原点を体現してくれた点でもオランダの価値は大きい。そしてもし今後、オランダ国内で野球人気が飛躍的に向上するようなことがあれば、そのための場を提供したWBCの功績も高く評価されていくことだろう。

【奢れるものは滅びる】

 逆にそのオランダに2敗したドミニカ共和国は、「今大会で最も期待を裏切ったチーム」に挙げられてしかるべきである。
大会直前にアレックス・ロドリゲスが離脱したのは痛かった。同じポジションにばかり好選手が集まってしまったことも不運だった。だがそれでも本来の力を発揮すれば、少なくとも第1ラウンドで消えることなどあり得ないほどタレントは揃っていたはずだった。
(写真:ペドロ・マルチネスの奮闘もドミニカ共和国に火をつけることはできなかった)

 敗因は慢心と対戦相手への過小評価。初戦でオランダに敗れた後も「ウチの方がずっと良いチームなのに」(ホゼ・レイエス)などと言い続け、相手の力を認めようとしなかった。そして攻守に雑なプレーを繰り返した末に、オランダとの再戦でもサヨナラ負けを喫し、結局は予選敗退決定。

「プエルトリコはチームプレーができていた。それに比べ、ドミニカは個人プレーばかりだった」
 プエルトリコ戦に敗れた後、オランダ代表選手が残したこのコメントがすべてを物語っていると言える。どれだけの才能が集まろうとも、自身の力を過信しては勝てない。ベースボールの真理を改めて証明し、優勝候補・ドミニカ共和国は舞台を去っていった。

【大会の問題点】

 チッパー・ジョーンズ、ダスティン・ペドロイア、ライアン・ブラウンなどアメリカ代表からは故障者が続出。一時はデイビー・ジョンソン監督が放棄試合をほのめかしたほどで、3月15日のオランダ戦ではキャッチャーのブライアン・マッキャンが急遽レフトに入る場面も見られた。

 ここまでけが人が多発しては、MLBの今シーズンに大きな影響を及ぼすことは確実。「WBCはMLB各チームのGMたちにとって悪夢のような大会」という声はすでに聴こえてきているし、ジョーンズのように「素晴らしい経験ではあったが、もう二度と参加しないだろう」と語る選手も出てきている。早急に対策を講じないとWBCの存続に関わる問題になりかねない。

 選手たち自身が考える故障の代表的な理由は、「3月という早い時期に身体に大きな負荷をかけ過ぎた」「試合間の休養日が多過ぎてリズムが作れない」というもの。1つめに関しては日本チームのようにもっと早く調整を始めれば解決することだが、しかし依然としてWBCに対する注目度が低い国々に現時点でそこまでは望めそうもない。ただ、もう1つの「多過ぎる休養日」は運営側の対策次第で解消できる。
(写真:メルビン・モーラらの主力からけが人が出なかったこともベネズエラの好調の原因だったかもしれない)

 アメリカ代表のケビン・ユーキリスがこんな案を語っている。「この大会は1つの場所に全チームを集めて開催するべきだ。移動のために費やす時間をなくせば、10日間ほどで全日程を終了させることも可能だろう」

 確かに例えばロスアンジェルスで大会を行なえば、ドジャースとエンジェルスの本拠地をフル回転させて日程を消化できる。1つの街に全世界からファンが集まることになれば、お祭り気分も煽られる。日本でいえば高校野球の甲子園大会のような高揚した雰囲気を創りだすこともできるはずだ。

 しかも3週間に間延びさせるのではなく、より短い期間のトーナメントにすれば、有力選手の辞退も減らせるかもしれない。代表チームで控えとなりそうな選手の中には、「3週間もの間、数日に1打席ずつしか立てないのであれば身体作りができない」と語り、今大会への参加を取りやめるものが見受けられた。しかし短く凝縮された大会であれば、よりフレキシブルに対応できる。もっと豪華なメンバーで7〜10日間を楽しむことは可能なはずだ。

 第2回WBCは好試合が目立ったのは収穫だったが、一方で運営面で相変わらずほころびが目立ち、大会自体の権威が上がったとはとても言えなかった。アメリカでは未だにエキジビション程度と認識されているのも事実である。

 それに加えてけが人が多発してしまえば、大会の評判がさらに悪くなることは必至。そんな悪循環を避けるために、今後のWBCの発展に向けて、前記のユーキリスのような良識ある選手たちに意見を求めていくことも必要に思える。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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