第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)がいよいよ開幕。世界最高の野球国を決める決戦が近づくにつれて、国際試合好きなアジア諸国が盛り上がっているのはもちろん、アメリカのメディア上でも徐々にこの大会のニュースが扱われることが多くなってきた。このまま行けば、第1回よりも華やかでグレードアップしたトーナメントが期待できそうである。
 そこで今回は、各国の主力メンバーを一通り目にしてきた筆者が、独断と偏見で最終予想を展開してみたい。日本の2連覇はなるのか? ラテン諸国からダークホースとして浮上するのは? そして、アメリカの逆襲の行方は?
(写真:城島はサムライジャパンの投手陣を引っ張れるか)
【本命 アメリカ】

 前々回のコラムで指摘したように、大物スターが軒並み辞退を表明したアメリカのロースターは「ドリームチーム」と呼ぶにはほど遠い。しかしそれゆえにモチベーションの高い若手が多く含まれることにもなり、この大会を勝ち抜くにはより適したチームとなった感もある。

 先発投手陣は、地味ながら実力ではメジャートップクラスの2大エース、ジェイク・ピービー、ロイ・オズワルドが中心。寸前で辞退者が続出してしまったブルペンも、依然としてJJ・プッツ、スコット・シールズ、ジョナサン・ブロクストンらが残っているため弱点にはなり得ない。打線にはライアン・ブラウン、デビッド・ライト、ダスティン・ペドロイアらの若手スターが名を連ね、どう並べようと切れ目のないものとなるはずだ。

「ESPN.COM」は、「第1回大会と比べ最も改良されたチーム」にアメリカを指名。ロジャー・クレメンス、アレックス・ロドリゲスのような重鎮を欠きながら「改良」とは不思議にも思えるが、それも遊び感覚だった前回と比べ意識改革がなされていることが買われての評価である。
(写真:メッツのデビッド・ライト(右)とホゼ・レイエスもWBCではアメリカとドミニカ共和国に分かれて戦う)

「3年前のチームよりも間違いなく準備ができている。大半の選手がほとんどぶっつけ本番で臨んだ前回と違って、今回は打者が10〜12打席、投手は1〜2度の登板をすでにそれぞれの春季キャンプでこなして来ているからね」とはデイビー・ジョンソン監督のコメント。

 それでも今週月曜にやっとチーム全体での初練習とは、長い準備を経て来たアジア諸国に比べて遅過ぎるようにも感じられる。だが監督の言葉通り、そこに至るまで所属チームの春季キャンプで汗を流していたのであれば調整遅れの心配はないだろう。そしてデレック・ジーター、チッパー・ジョーンズ、ジミー・ロリンズら求心力のあるリーダーが中央にいれば、短期間でチームワークを築き上げることも不可能ではない。

 総合的に見て、バランスの良い戦力に「やる気」が加わったアメリカが、今大会制覇に最も近い位置にいると筆者は見ている。やや地味で目玉に欠けるロースターだけに、前評判で国民を惹きつけるには至っていない。だがこのメンバーならどんな相手との対戦でも柔軟に対応できるだろう。
 そして1次ラウンドから決勝トーナメントまで勝ち進むにつれて、負けず嫌いの国民性が頭をもたげ、アメリカのスポーツファンも徐々に熱くこの代表チームをサポートし始めるはずだ。

【対抗 日本or韓国】

 米国在住ゆえに近年はアジアの野球から縁遠くなっていた筆者だったが、現在タイミングよく一時帰国中で、強化試合などのテレビ観戦を通じて日本と韓国の戦力を一通り把握することができた。

 東洋のライバル同士は、基本的に良く似たタイプのチームに思える。ディフェンス重視で、打者は早打ちを避けるチーム優先スタイル。相手投手に球数を投げさせる献身的な姿勢が浸透しているため、どの国も投手力の整備が追いつかないこの時期のトーナメント向きだと言える。

 昨年、メキシコ代表のホルヘ・カントゥに話を聞いたとき、「君たちの国はまさに教科書通りの野球をやる。非常にいやらしくてやりづらいよ」と言われたことを思い出す。特にイケイケ野球のラテンのチーム相手には、アジアの野球は相性が良いのではないだろうか。さらにWBCへのモチベーションの高さが全世界屈指であることはもう言うまでもない。総合的に見て、日本と韓国は今大会でも十分に決勝進出が狙える体勢を揃えて来ているように思う。

 ただ……「最終予想」とタイトルに銘打っておきながら非常に申し訳ないのだが、日本と韓国のどちらが上かという問いの結論に筆者はまだ達し切れていない。

 松坂大輔、ダルビッシュ有、岩隈久志という日本の3本柱は強力だが、韓国のキム・ガンヒョン、リュ・ヒョンジンの両左腕も噂通り力はありそうだ。打線も粒ぞろいながら、パワー面で怖さが感じられない点でも両チームは共通している。まさに実力伯仲で、直接対決でどちらかが楽勝するケースは想像し難い。

 いずれにしても、この宿敵同士は第1ラウンドから2度の対戦が濃厚で、決勝トーナメントに進むまでに今大会での力関係はうっすらと見えてくるだろう。そして本番で首尾よく調子を上げていった方が、アメリカの最大のライバルとして浮上することになりそうである。

【注意 ドミニカ共和国】

 プエルトリコ、ベネズエラ、ドミニカ共和国、キューバ、メキシコといったラテン諸国は揃って投手陣に不安を抱えている。
(写真:ミゲル・カブレラらが揃い打線は充実のベネズエラも、投手力不足が痛い)

「春は投手力」といった言葉が日本の高校野球では使われるが、オールスターメンバーが揃うWBCでもそれは同じ。予備ロースター発表時に評判が良かったベネズエラは、ヨハン・サンタナ、カルロス・ザンブラーノという両輪の欠場がなんとも惜しい。前回準優勝のキューバも、35歳のペドロ・ラソが未だに先発1番手では厳しいだろう。ダークホースとなり得たメキシコは、マット・ガーサが辞退したのが痛い。エース的存在がいないこれらの国々は、今大会でもやはり対抗馬以上には推せまい。

 そんな中で、「打線の魅力だけで大会を制してしまうのでは」と期待を抱かせるのがドミニカ共和国。アレックス・ロドリゲス(故障発覚で辞退決定)、デビッド・オルティース、ハンリー・ラミレス、ミゲール・テハダ、ホゼ・レイエス、ホセ・ギーエンら、ロースターはビッグネームだらけ。マニー・ラミレス、アルバート・プーホルスが欠場でもこの布陣なのだから、この国のタレントレベルの高さは脅威である。
(写真:デビッド・オルティースの打棒がドミニカ共和国のカギを握る)

 それでも例に漏れず投手力は不足しているだけに(エースはエドウィン・ボルケス、抑えはホセ・アルレドンドあたりが務めるはず)、むやみな高評価は禁物ではある。ただ強力打線は2線級投手が相手なら苦もなく打ちのめすだろうから、アメリカ以外に好投手が少ない第2ラウンドまでは力を発揮するかもしれない。巡り合わせが良ければ決勝進出の可能性も感じさせる。ただ……好バランスのアメリカ、待球戦術のアジアチームに勝つとなると、筆者にはどうしても難しいように思えてならない。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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