3月29日、今年初の公式戦が始まりました。
 新チームになって初めての試合です。対戦相手は昨年2戦2勝の熊谷ですが、スタメンが半分以上入れ替わっている上に、1回戦で強豪チームを破ってきているとあって、どんな試合になるのか全く予想がつきませんでした。
 1回表に2点を先制し、波に乗れたと思いきや、1回裏にエラーから崩れ、7点を取られてしまいます。
 「オープン戦、一回もできなかったからなぁ……」
 ベンチで監督がつぶやきました。
オープン戦を1戦も組めなかったことで、試合勘が全くない状態で公式戦をむかえてしまったことも、初回の大量失点の原因だと思います。

 初回の7失点が響き、3回以降得点を重ねるも、8回が終わった時点で10対6。4点差を9回表だけでひっくり返すことができると自信を持って言える状況ではありませんでした。

 簡単に1アウトを取られたあと、隣に座っていた監督が私に聞きました。
 「俺って試合に出れるの?」
 「出れますよ。監督兼選手で登録してますから」
 「そうだよな、出ていいんだよな」
 監督はおもむろに立ち上がり、ヘルメットをかぶり始めました。
 2、3回素振りをすると、9番に代打で入ると言って、ベンチから出て行きました。

 ヒットとフォアボールで2点を追加し、1アウト2、3塁の状況で、代打大塚。本当に打席に立ってしまいました。
 観客席も含め、球場全体が監督の打席に注目しています。
 初球、ボール。
 「これ、勝負しないな」とコーチ。
 2球目、3球目もボール。監督が「勝負しろよ」と言わんばかりの構えをしていましたが、結局フォアボール。代走を送ってベンチに戻ってきた監督はかなり不満そうでした。

 しかしサヨナラのランナーが出たことはこちらにとってみればチャンスです。監督が敬遠されたことで俄然勝ちが見えてきたわがチームのバッターは3番の増井。
 レフト線ぞいのフライが上がり、万事休すと思われた瞬間、ダイビングキャッチをしたレフトのグローブに一度入ったと思った打球が、芝生の上にポロっと落ちるのが見えました。
 その瞬間、ベンチは総立ちです。
 「まわれまわれ!」
 全員3塁コーチャーにでもなったような勢いです。
 ランナー3人がホームにかえり、合計5点を追加。逆転勝利です。

 「打席に立って、俺がどんな結果であろうともし負けたら、全部俺の責任だって言うつもりだったんだけどな」。試合後、監督がそんなことを言っていました。
 チーム全体のがんばりはもちろん、なにがなんでもランナーを出したいあの場面で敬遠を誘った監督の打席は、確実に勝利につながるプレーでした。

 ダブルヘッダーで行われた準々決勝は8対0でコールド勝ちをしました。創部4年目にして初めて、企業チームと対戦する機会を得ました。

 昨年、大量失点で初戦敗退だったことを思えば、今年ベスト4まで駒を進められたことは大きな成長です。
 この勢いでこれから続く公式戦を戦っていきたいと思います。

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広瀬明佳
福島県郡山市出身。母がソフトボール、兄が野球をやっていたことから中学・高校時代ソフトボール部に所属。大学時代軟式野球サークル。前職での仕事をきっかけに初めて硬式野球の道へ。現在、埼玉県内の硬式野球クラブチームに所属。チームの紅一点として奮闘中!

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