「やっぱりヘビー級の試合が観たいですよ。軽量級の試合には、ヘビー級を上回るスピードとテクニックがあるとか言われても、どうしても迫力が伝わってこないんです。また『PRIDE』の時のようにド迫力のヘビー級の試合をいっぱい観たいですよね」
 最近、多くの人から、そんな風に聞かされる。
 3月8日に『DREAM7』(さいたまスーパーアリーナ)で、20日には『戦極・第七陣』(代々木第2体育館)で各々、フェザー級のグランプリ・トーナメントが開幕した。見ごたえのある闘いが続いたとは思う。しかし、『PRIDE』から見続けているファンに対して、強いインパクトを与えることができたかどうかは疑問だ。

 20日の『戦極』の第7試合で「ジェームス・トンプソン対ジム・ヨーク」というカードが組まれた。ともに技術的には粗く、決してレベルの高い闘いではなかったが、会場は大いに沸いた。120キロを超すヘビー級ファイター同士の闘いに迫力を感じたからだろう。皆、ヘビー級の試合を観たがっているのだ。

 そんなことを考えていたら、どうやら『DREAM』が無差別級グランプリの開催に向けて動いているらしい。
 PRIDEヘビー級王者エメリヤーエンコ・ヒョードルへの挑戦権を賭けて、アントニオ・ホドリコ・ノゲイラ、ジョシュ・バーネット、ミルコ・クロコップ、ヴァンダレイ・シウバらが集った『PRIDE無差別級グランプリ』(2006年開催)は、世界のトップレベルの闘いを見せてくれた大会だった。しかし、当時のメンバーが一同に会するのは難しいだろう。ノゲイラ、シウバらはUFCに闘いの場を移しているし、ヘビー級のトップファイターたちのファイトマネーは高額である。だから『PRIDE無差別級GP』の再現を、とまでは望まない。

 それでも、現在、集結させることが可能なヘビー級ファイターたちによるトーナメント開催はファンのニーズに大きく応える形になるだろう。
 ミルコ、ジョシュ、アリスター・オーフレイム、ボブ・サップ、マーク・ハント、藤田和之、ルーロン・ガードナー、ホジャー・グレイシー、ハレック・グレイシー……。まだまだヘビー級の舞台で闘える男たちは“未知の強豪”も含めて多くいるはずだ。
 いや、無差別級なのだから、ミドル級ファイターや、かつて「秋山(成勲)と闘いたい」と口にした青木真也の参戦があってもいい。

 以前にヒクソン・グレイシーは私に、こんな風に言った。
「階級別の試合に出るのは私は好きではない。闘いにカラダの大きさは関係ない。大きくて力のある相手を倒すことで私は柔術の技術の素晴らしさを証明したいんだ」
 
 軽量級選手たちが輝ける舞台……それは階級の壁を打ち破った闘いにこそあるのではないか。危険を伴った闘いであるから、選手たちに無理強いはできない。それでも、ヒクソンが求めていた闘いのあり方にこそ、ヘビー級のド迫力ファイトを超す魅力があるように思える。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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