ホセ・カンセコ……懐かしさを感じる名前であり、同時にメジャーリーグ好きなら誰もが知っているビッグネームだ。白、黄、緑を基調としたオークランド・アスレチックスのユニフォームが、よく似合っていた。改めて球歴を記す必要もないだろう。偉大な元メジャーリーガーである。そんなカンセコが『DREAM9』に参戦すると聞いた時、最初は驚いたが数秒後に、「なるほど」とも思った。
 カンセコは大の格闘技好きである。観るのも好きだが、やるのも好きで実際にトレーニングをしてボクシングのリングにも上がっている。
 昨年7月に米国アトランティックシティのバーニー・ロビンズ・スタジアムで開かれたボクシングのセレブリティ・マッチに出場。フィラデルフィア・イーグルスでリターナーとして活躍した元NFLプレーヤーのヴァイ・シカヘマと対戦した。しかし、結果は惨敗。フックを浴びて1ラウンドKOで散っている。

「カンセコ、総合格闘家に転向」
 そんな見出しが5月1日のスポーツ紙に掲げられていたが、それは少し違うと思う。カンセコは、これから本格的にトレーニングを積んでエメリヤーエンコ・ヒョードルや、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラやミルコ・クロコップのようなヘビー級のトップファイターと肩を並べる存在になろうとしているわけではない。彼はリングに上がるのが好きで、今回の話に乗っただけである。
「カンセコが、総合格闘技にチョット参戦」
 これくらいの表現が妥当ではないか。

『DREAM』に参戦するカンセコの立場ははっきり言えば「客寄せパンダ」である。もう少し言えば彼が出場する「スーパーハルク・トーナメント 〜世界超人選手権〜」も、また然りだ。このトーナメントの1回戦の対戦カードは次の通り。
 ボブ・サップVSミノワマン
 ヤン“ザ・ジャイアント”ノルキヤVSソクジュ
 ゲガール・ムサシVSマーク・ハント
 そして、チェ・ホンマンVSホセ・カンセコ

 面白そうではある。ファンは理屈抜きに迫力が伝わってきて面白いヘビー級ファイトを見たがっている。そのニーズには充分、応えることだろう。しかし、かつて“60億分の1”のフレーズが冠され、最強を求めて開かれた「PRIDE無差別級グランプリ」とは、目的も性質も異にするトーナメントである。
 5月26日の大会は当日、TBSテレビで午後7時55分から『史上初! 2大格闘技祭り ボクシング内藤大助世界戦×総合格闘技DREAM9』と題して3時間枠で放映される。その視聴率を稼ぐために開かれるのが、「スーパーハルク・トーナメント」であり、この試みを盛り上げるためにビッグネームであるが故に担ぎ出されたのがカンセコなのだ。

 カンセコを将来的に『DREAM』のエースに……などということを、主催者側が考えているはずもない。そんなことはカンセコ本人も百も承知だ。ただ、主催者がカンセコにかけている期待は大きい。カンセコを見ようと、「スーパーハルク・トーナメント」を見ようと、チャンネルを合わせる視聴者は多いだろうから。つまり、カンセコで、「スーパーハルク・トーナメント」で、客を呼び寄せ、そんな彼らに真の格闘技の面白さを知ってもらおう……主催者の狙いは、そこにある。

 そう、頑張って光るべきは、J.Z.カルバンに挑む川尻達也であり、山本“KID” 徳郁をはじめとするフェザー級グランプリ2回戦を戦う面々なのだ。
 軽量級の技術力の高いファイトが、ヘビー級のド迫力ファイトの前にかすむのか、それとも、彼らが呼び込んだ客を虜にできるのか。ここが「総合格闘技隆盛再び」なるか否かの分岐点である。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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