完全試合を達成したピッチャーは、日本プロ野球史上15人しかいない。最後に大記録を達成したのが元巨人の槙原寛己である。

 1994年5月18日、巨人対広島。場所は福岡ドーム。27人目のバッター御船英之が打ち上げた打球は力なく一塁側のファールゾーンへ。ファーストの落合博満のミットに打球がおさまった瞬間、槙原は高々と両手の拳を突き上げ、マウンド上ではねた。

 実はこの完全試合には秘話がある。前々日、槙原は門限を破って博多の街にこっそりと繰り出した。海の幸に山の幸、しかもまばゆいばかりのネオン。日本有数の繁華街・中洲の誘惑に勝てなかったのだ。

 ところが、である。やはり悪いことはできないものだ。中洲の橋の上で、堀内恒夫コーチにバッタリ出くわしてしまったのだ。変装したつもりだったが、何の役にも立たなかった。

 この時、槙原30歳。門限破りの対価は高くついた。外出禁止1カ月。「罰金なら払いますが、外出禁止1カ月はないでしょう?」。腕組みしたまま仏頂面のマネジャーは答えた。「わかった。明日先発だから、その結果を見て決めよう」

 振り返って槙原は語る。「あれで気合が入ったんですよ」。まったく、何が幸いするかわからない。プロにはこんなペナルティ効果もあるのである。

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