オリンピック、世界選手権を通じて、陸上のトラック競技で日本人男子で初めて表彰台に上がった男――それが「サムライ・ハードラー」こと為末大である。

 2001年8月11日、カナダ・エドモントン。第8回世界選手権、男子400メートル障害、決勝。

 準決勝で48秒10の日本新記録をマークした為末は3レーンに入った。まわりを見れば190センチの長身選手が2人もいた。為末の身長は169センチ。それだけでも異様な光景だった。

 8台目のハードルを8人中、最初に飛び越えた。つまり400メートルの距離の中で、290メートルまで為末は世界のトップにいたのだ。

 だが、ここで「現実」が為末の背に襲いかかる。9台目でサウジアラビアのアル・ソマイリにトップの座を明け渡すと、最後の10台目ではイタリアのファブリツィオ・モリ、そしてドミニカ共和国のフェリックス・サンチェスにも抜かれ、4位に落ちた。

 残り40メートル。前半から飛ばしに飛ばした為末のタンクに、もはやガソリンは残っていないかに思われた。

 しかし、ここから「サムライ・ハードラー」は信じられない粘りを発揮する。ゴール直前でソマイリをわずかだが抜き返し、3位に食い込んだのだ。

 フィニッシュタイムは為末47秒89。ソマイリ47秒99。わずか0.1秒差。そう言えばレース前、為末はこう語っていた。
「タンクが空っぽになった先は魂で走る」

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