このコーナーでは今春スタートした関西独立リーグから各チームの監督に交替で登場していただきます。チームの現状から期待の選手、指導者としての理念など、ここでしか読めない内容を毎月1回、お届けする予定です。第1回目は明石レッドソルジャーズの北川公一監督のコラムになります。
 みなさん、はじめまして。リーグ戦が開幕してちょうど1カ月。2月のキャンプ、3月のオープン戦を通じて、僕たち首脳陣はさまざまなことを選手たちに伝えてきました。その意図がようやく全体に浸透してきた手ごたえを感じています。これからチームがどこまで進化するか楽しみです。

 このリーグの目的は大きく分けて2つあります。地域に密着し、多くのお客さんに野球を楽しんでいただくこと。そして、選手たちをひとりでも多くNPBに送り込むこと。特に選手育成は我々、指導者の大きな仕事です。

 私は現役引退後、社会人の神戸製鋼でコーチをしていました。アマチュアとこのリーグが異なるところはどこか。それは目標の違いでしょう。アマチュアでは、まず都市対抗出場といったチームとしてのハードルをクリアしなくてはなりません。監督の目指すチームに選手たちがプレースタイルを合わせることも時として必要です。

 しかし、このリーグの目標はまずひとりひとりの実力を向上させることが第一です。その結果として、試合でチームの勝利を目指す形になります。ですから、私には「こんなチームをつくりたい」という理想はありません。考えているのは、いかに選手個々の長所を伸ばし、短所を改善するか。選手にも「試合の勝ち負けは監督の責任だ。結果を気にせず、自分のレベルアップをはかってほしい」と話をしています。

 NPBを経験した人間からみると、このリーグの選手たちは全体的に線が細く、体力がありません。公式戦は前後期合わせて72試合。このままでは夏場以降に疲れが出てくるのが目に見えています。NPBでもそうですが、暑い夏に調子を落とす選手はいい成績を残せません。

 そこで、今はあえてゲームに向けた調整を考えずに練習メニューを組んでいます。試合の前だろうが後だろうが、めいっぱい練習を行うことでとにかく選手には体力をつけてほしいのです。中には、こんな野球漬けの毎日を送ったのが初めての人間もいるでしょう。しんどいかもしれませんが、ここでの貯金が後半に生きると思って頑張ってほしいと思っています。

 チームには最年長37歳の前田勝宏(元西武)から高校を卒業したばかりの若手もいます。その中で、現時点で最もNPBに近い存在として期待できるのは右腕の百合翔吾(大阪経済法科大)でしょう。彼は身長184センチの長身を生かした本格派タイプ。ズバッと決まったストレートには威力があり、NPBでも充分通用するボールを持っています。しかし、いいストレートが来るパーセンテージはまだまだ高くありません。加えてスタミナも不足しています。

 そこで今は無理をさせず、6、7イニングをしっかり放ることを当面の目標に定めています。ここまでの成績は6試合に登板して2勝1敗。まずまずの結果を残しています。とはいえ先発でずっと投げていれば、打たれるゲームも出てくるでしょう。成功も失敗も肥やしにしながら、秋にはひとまわりもふたまわりも成長することを願っています。

 個人的には、このリーグは次の夢をつかむ場所であると同時に、夢を諦める場所だと捉えています。レベルアップが望めない選手には、引導を渡すことも重要な役割です。酷かもしれませんが、他の独立リーグも含め、いくつものチームを渡り歩いた選手たちには、意識的に厳しく当たるようにしています。なぜなら、彼らがチームを変えても上に進めないのは、何かが足りないから。「ここで最後」との強い気持ちをもってくれなければ、その殻は破れないのです。

 NPBなら1年でクビを切られることは滅多にありません。しかし、このリーグではシーズンオフには残念ながらユニホームを脱ぐ選手が出てくるでしょう。ある意味で、NPBよりも厳しい世界なのです。選手たちはそのことを自覚して1年間、野球に打ち込んでほしいと感じています。

 私もひとりひとり責任をもって指導するつもりです。ぜひ、みなさんもこれからが楽しみな若手を見つけに明石へ来てください。スタジアムでお待ちしています。


北川公一(きたがわ・こういち)プロフィール>:明石レッドソルジャーズ監督
1941年6月29日、兵庫県出身。甲陽学院高を経て、慶大時代は東京六大学で活躍。64年に近鉄へ入団し、3年目から外野のレギュラーに定着した。現役時代の後半は左の代打としてもプレー。74年限りで引退後は会社員生活を送っていたが、94年より社会人の神戸製鋼のコーチに。クラブチームの全播磨公式野球団でも指導をしていた。関西独立リーグの誕生に伴い、今季より明石の監督に就任。現役時代の通算成績は875試合、打率.240、18本塁打、158打点。




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 今回は北川監督のコラムです。「主砲・田中の脳内改革」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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