20年近くも前だが阪神電鉄の広報から抗議を受けたことがある。タイガースは阪神グループの単なる広告塔ではない。グループの基幹事業である。ならばもっと強化資金を投入したり、有能な人的資源を球団に送り込むべきだ…。そんな記事を月刊誌に書いた。電鉄本体の小規模さを強調しようとするあまり、つい筆が滑った。
<電鉄の総営業距離数は40数キロ(現在は48.9キロ)。マラソンの瀬古利彦や中山竹通が全盛期なら2時間8分か9分で走れる>。これが先方の機嫌を損ねたようだ。「二宮さん、アンタよう調べてますけど、ひとつ間違ってますワ。踏み切りを計算に入れんかったでしょう。残念ながら2時間半はかかりますワ」。なんとも牧歌的な時代だった。

 かつて「お家騒動」と言えばタイガースの「お家芸」だった。オフになると何かとモメ事を起こし、世間の耳目をひいた。私にいわせれば「ストーブリーグ・ビジネス」だ。新聞やテレビなどの周辺産業もそれによって活性化した。
 最近は「お家騒動」の「お家元」が西のタイガースから東のマリーンズに移りつつある。しかし本家に比べると、まだまだ芸が未熟だといわざるを得ない。

 事の発端は日本経済新聞(4月25日付)の記事。最高首脳の「オーナーサイドからはロッテのイメージが悪くなるならフランチャイズをかえたらどうかとの話もある」との発言を紹介し、公式の議事録にも掲載されていると報じた。
 27日には報道各社に「社長ミーティング議事録」なる文書がファックスされ、瀬戸山隆三球団社長が記者会見する騒ぎに発展した。瀬戸山氏は言下に「そもそも公式の議事録などないし、偽造ではないか」と否定した。いわば“怪文書”というわけだ。仮に「偽造」であれば、これは場合によっては有印私文書偽造罪にあたるとの指摘もある。

 そうした深刻な問題に今、深入りすることが得策だとはとても思えない。多くのプロ野球ファンは今季のペナントレースは1強5弱のセ・リーグより群雄割拠のパ・リーグの方がおもしろいと感じている。GW前のゴタゴタはせっかくの盛り上がりに水を差す。「お家騒動」の続編は貴重な“裏コンテンツ”なのだからシーズン終了後まで大事にとっておいて欲しい。

<この原稿は09年4月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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