今月に入り、南アW杯アジア最終予選は中休みに入っています。しかしながら、Jリーグに目を向けると各クラブとも4月に5試合ずつが組まれ、各地で熱戦が繰り広げられています。この過密日程は5月まで続き、2カ月間でJリーグだけでも10試合。さらにACL組はグループリーグの日程が重なるわけですから、非常に厳しいスケジュールになっています。

 開幕から8節を消化したJリーグでは、鹿島アントラーズや浦和レッズといった名門クラブが上位に名を連ねる中、昇格組・モンテディオ山形の健闘が光ります。前節も敵地で大宮を3−0で下し、5位をキープ。今季、初めてJ1の舞台に立つクラブですが、ここまでの戦いぶりは実に見事です。シーズン開幕前に小林伸二監督は「今シーズンの目標は勝ち点」とインタビューで答えていたようですが、とんでもない。8節終わって14ポイントを手に入れているのですから立派なものです。

 躍進の理由は何か? それは攻撃の特徴にあります。山形には突出したストライカーがいせん。FWの長谷川悠が5ゴールを挙げ、攻撃陣の中心的存在になっていますが、他にも古橋達弥やキム・ビョンスクといった選手が得点シーンに絡んでおり、ゴールが数人の選手に分散しています。これが山形の最大の長所と言っていいでしょう。

 このようなチームは対戦するDFからすると非常に守りづらい。例えば、サイドからクロスボールが上がります。相手に“絶対的な”ストライカーがいれば、まずはそこへ競りかけていけます。しかし山形のように、誰が点を獲りに来るかわからないチームだと的が絞りづらいのです。長谷川の他にも、1人か2人が上がってきますから、これは非常にやりづらい。つまり山形は数人の選手に頼っているのではなく、「総合力の高さ」で勝ち点を積み上げているのです。実力がなければこのような戦い方は不可能ですから、5位という位置にいるのはシーズン序盤の珍事とは言えません。この調子を維持して、山形のみならず、東北中をサッカー熱で覆いつくしてほしいですね。

 山形のチームの母体を取り仕切っているのは海保宣生さん。以前は鹿島アントラーズの常務をされており、私が住友金属時代から知っている方です。チームが若くても、クラブ作りを知っている人たちが運営している。こういうクラブは強くなっていきます。

 思えばJリーグ開幕前のアントラーズも、現在の山形と似たような境遇にいました。住友金属から鹿島アントラーズへ生まれかわったときには、Jリーグのお荷物になるのではと危惧されたものです。そこからスタッフ、選手が一丸となってクラブの基礎をつくっていきました。もちろんジーコやアルシンドの功績も大きいですが、「2人に負けまい」と頑張った長谷川祥之や黒崎久志たちの力が底上げされたからこそ、チームの総合力は上がっていきました。チーム全体で点が獲れるという点でも、山形と重なる部分があります。山形の戦いぶりには今後も注目していきたいです。

<リーグを活性化させるルーキーたちの活躍>

 一方、09シーズンの開幕節から目立っているのは新人選手の活躍です。横浜F・マリノスの渡邉千真は開幕戦ゴールを含め、現在4得点を挙げています。浦和レッズの10代コンビ、原口元気と山田直輝もそれぞれゴールを挙げており、レギュラーの座を手中に収めかけている。そして、鹿島ではACLで3得点の大迫勇也も活躍しています。

 この流れはJリーグにとって歓迎すべきことでしょう。プロリーグが始まって17年目。Jリーグとほぼ同じ年の彼らが活躍するのは、長年行ってきた育成の努力が身を結びんでいる証拠です。もちろん、彼らは全国にいるサッカー少年全体からみれば、ほんの一握りの存在です。しかし、何人かでもトップの選手として活躍できる人材が育ってきたのは喜ばしいこと。各クラブとも彼らを積極的に起用する姿勢をみせていることも活躍につながっていますね。

 日本のスポーツ文化というのは、これまでタテ社会という印象が強かった。そこには良い面と悪い面が混在しており、どうしても年功序列という考えがあったように思います。しかしここにきて、若い世代にもアピールの場が与えられているのは素晴らしいことです。今後、この流れはさらに加速していくでしょう。Jリーグも17年目に入って、リーグとしての本当の土台がやっとできてきたということかもしれません。「若い子たちに夢のあるリーグ」、そういう存在になって欲しいものです。

 若手選手の活躍が目立つ一方、中堅・ベテラン選手の奮起にも期待したいですね。若手にはない、経験という大きな武器を持っているわけですから、それらに磨きをかけていってほしい。安定した力を出せるのは、やはり経験豊富な選手たちです。彼らの存在は監督にも重宝されますし、下の世代にとってよい手本ともなります。お互いに刺激しあって、クラブの実力、果てはリーグ全体や日本代表のレベルアップに繋げていく。これこそが日本サッカーの理想の形です。各選手が一丸となって、日本のレベルアップに貢献していってほしいと願っています。

<ホーム戦で水原三星に大敗のリベンジを!!>

 Jリーグの過密日程と並行して行われているACLグループステージ。4戦を消化して、ガンバ大阪と川崎フロンターレは早くも決勝トーナメント進出を決めました。ガンバは昨年の覇者だけに、安定した戦いぶりで無敗の突破。フロンターレも一昨年、PK戦で敗れた悔しい思いがあるだけにこの大会にかける意気込みは相当なものですね。

 まだ決勝トーナメント進出を決めていない鹿島はグループリーグ突破に向け、5月5日(祝・火)に大一番を迎えます。ホームでの水原三星戦。前回の対戦では、アウェーで4失点を喫し完敗しています。アジアの頂点を狙うには同じ相手に2度続けて負けるわけにはいきません。ここは絶対に落とせない1戦です。

 Jリーグで首位に立っているアントラーズですが、最近の戦いぶりを見ると歯がゆく感じる場面が多く見受けられます。パスは繋がるのですが、相手ゴール付近で速いボールを入れることができていない。しっかりと引いた相手を崩すには、ゴール前でのテンポアップが必要です。ギアを1段上げたと時のパスミスが非常に目立ちます。これではなかなかゴールに繋がる動きはできません。安定した試合運びをみせるにはここを修正しなければなりません。小笠原満男が復帰し改善されてきましたが、彼がチームにフィットしていくにはもう少し時間がかかりそうです。

 5日の三星戦で勝ち点3を奪えば、決勝トーナメントに向け精神的に優位に立てます。Jリーグでの戦いにも好影響を及ぼすでしょう。過密日程を戦う選手にとって、勝つことが最も効果のある疲労回復薬となります。大敗のリベンジを期待しています。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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