28日に行なわれた南アフリカW杯アジア最終予選バーレーン戦は、日本が終始ボールを持ち続け、試合の主導権を握りました。しかし、ゴール前でシュートを放つ場面は多く見られませんでした。本数だけを見れば前半に8本、後半に6本のシュートを放っていますが、惜しいと思える場面も少なく、ほとんど枠に行きませんでしたね。中村俊輔(セルティック)のフリーキックが1本入ったために、勝ち点3を収めましたが、バーレーンからすれば日本の攻撃はそれほど怖くなかったのではないでしょうか。

 3トップで臨んだこの試合では、大久保嘉人(ヴォルフスブルグ)が下がり目の1.5列目に入り、玉田圭司(名古屋)が長いパスからDFの裏に走りこむことはできていました。左サイドからの突破も機能していたように見受けられました。前半から長友佑都(F東京)が積極的にオーバーラップを見せ、攻撃の起点を作りましたね。一方、右サイドバックの内田篤人(鹿島)は孤立していました。内田が孤立した理由は、田中達也(浦和)が右サイドに開いてボールを受けることが多かったから。スペースがなく、内田の持ち味をいかすことができませんでした。

 左右のバランスは悪かったですね。たとえば左サイドでボールが回っている時に、右サイドで中村俊がフリーで待っていても、ボールが出てくることがほとんどありませんでした。もう少し左右での揺さぶりをかけてもよかったのではと思います。これまでの戦いではできていたのですが、バーレーン戦ではサイドチェンジが少なかった。同じサイドから攻め上がり、クロスを入れていたので相手は守りやすかったでしょう。相手DFは高さがあり、シンプルなクロスだけでは崩しにくい。パスは十分繋がっていたので、もっとワイドに攻めることができていればもっと点が取れたように思われます。

<センターバックとボランチの連係は安定>

 守備面では最終予選で3試合連続の無失点。センターバックの中澤佑二(横浜FM)と田中マルクス闘莉王(浦和)が離れずにうまく動いています。そこにボランチの2人、遠藤保仁(G大阪)と長谷部誠(ヴォルフスブルグ)を含めた4人がうまく機能していることが無失点にできた要因でしょう。結果が出ることによって、彼らも自信を深めているようです。

 本大会へ向け、さらにステップアップするためには、長谷部とセンターバック2人のコンビネーションを磨く必要があります。人数をかけて攻撃をしたい時、遠藤の上がりはどうしても必要になります。その時、後ろに残るべきMFが守備の意識を高めなければいけません。勝負所でワンボランチになったときのシステムを洗練させる。これが日本を強くする1つのポイントだと考えます。

<早い出場権獲得で万全な準備を>

 28日の勝利で4大会連続となるW杯への出場権を獲得する可能性は大きくなりました。現在、アジア地区に与えられている出場枠は4.5枠です。僕らがW杯出場をかけて戦った94年アメリカ大会予選の時は、わずか2枠。近年のアジア地域でのサッカーの発展を考えれば枠が倍増したことはいいことですし、日本にとっても間違いなくプラスです。

 最終予選で苦しい戦いを経験しないことが代表を弱体化させているのでは、という声もあります。でも早く本大会出場を決めることは、本番で上位に進出するためには圧倒的に有利です。しっかりとした準備ができるわけですから、このチャンスを有効に使っていかなければいけません。世界での経験を確実に積み重ねていくことは日本サッカーにとって大きな財産になります。残りの予選は本大会への準備期間ととらえてほしいものです。

<Jリーグ開幕、未勝利クラブが勝ちを手に入れるために>

 Jリーグは開幕後、3節が終了しました。すでにJ1では全勝チームがなくなり、昨年に続いて大混戦の様相です。J2から上がったばかりのモンテディオ山形など開幕にピークを合わせてきたクラブが、その勢いをどこまで保つことができるか。ここが見ものですね。

 好調なクラブがある一方で、開幕からなかなか白星を挙げられていない川崎フロンターレ、横浜F・マリノス、清水エスパルスの選手たちは、フラストレーションを抱えていることでしょう。私の経験からすると、結果がでないとどうしても監督のゲームプランやチーム構成に対して不満が出てくるものです。監督も自分の地位をかけて必死に戦っていますから、すぐに選手やシステムを変更したくなるのです。そうすると、勝てない選手たちはますます混乱し、どう戦えばいいのかわからなくなってしまいます。急なシステム変更は試合中に連係を探っていく結果になりますから、試合をしながら、同時に練習しているような動きになってしまうのです。

 特に守備陣は1つのユニットとして動かなければいけません。その中で駒が1つでも変わってしまえば、全て一から修正し直さなくてはいけない。仮に負けたとしても、同じメンバーで戦うことができれば、チームの完成度は上がります。しかし、監督からすると、結果が出ていないのに何も手を打たないわけにはいかない。一番単純な方法は選手を入れ替えることになります。しかし、ピッチ上の選手から見ると、その入れ替えが勝てない原因になってしまうのです。攻撃陣を替えることで点を取れることもありますが、守備陣を替えたら点を取られるケースのほうが圧倒的に多い。試合の中で効果的にディフェンスが改善されることはありえませんからね。

 負けが込んでいるクラブはどうして勝てないのか、しっかりと原因を洗い出さなくてはいけません。サッカーの場合、どうしても避けられない失点というものもあります。素晴らしいミドルシュート、クリアのこぼれ球を押し込まれたとか、これらは仕方のないことです。しかし、自分たちのミスによる失点であれば、対策を練れるはずです。今のメンバーで戦うにはまずどうしたらよいのか。しっかりとした分析を行い、クラブ全体で話し合い、全員が問題を共有することで光が見えてきます。まだ結果のでないクラブも底力を持っているはず。3試合を踏まえての修正力がクラブの浮沈を握っています。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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