27日に行われた日本対チリ戦は4−0で日本が完勝しました。ただ、相手はW杯南米予選3位の強豪とはいえ、欧州やメキシコリーグに所属する中心選手は皆無でした。あの試合の位置付けは難しいですね。4得点は素晴らしい結果ですが、最終予選にむけての試合としてはあまり意味のある1戦とはいえませんでした。

 出場した選手1人1人を見れば、彼らの活躍ぶりは評価できます。2得点の岡崎慎司(清水)や強烈なシュートで魅せてくれた本田圭佑(VVVフェンロ)はいい動きをしていた。18歳で代表デビューを飾った山田直輝(浦和)も一生懸命に周りと絡んでいこうとしていました。持ち味のスピードを周りが生かせるようになれば、面白い選手になります。

 とはいえ、彼らを最終予選で起用するかは別問題です。中村俊輔(セルティック)や松井大輔(サンテティエンヌ)が戻ったら、なかなか出場機会は与えられないでしょう。若手を起用して刺激を与えたい気持ちは分からないでもないですが、岡田武史監督が狙ったゲームプラン通りにはならなかったと思います。代表としては久々の試合でしたから、選手のコンディションをチェックする。その程度しか成果はなかったように感じました。

 あえて日本のよかった点を挙げれば、中澤佑二(横浜F・マリノス)の動きでしょうか。田中マルクス闘莉王(浦和)が負傷により欠場したチリ戦で、代わってセンターバックに入った阿部勇樹(レッズ)と安定した守備をみせていました。中澤がうまくフォロー役に徹していた。あれだけ安定感のあるDFラインならば、中澤・阿部という組み合わせは今後の試合でも使えるでしょう。問題は中澤が何らかの理由で欠場になった時。闘莉王と阿部という組み合わせもあり得るかもしれませんが、今回は経験豊富な山口智(G大阪)を招集している。せっかくのテストマッチですから、様々な状況を想定して、中澤の穴をいかにして埋めるかをシュミレーションすることを考えてもよいかもしれません。

 31日にもベルギーとの親善試合がありますが、当然のことながら代表の視線は6月6日のウズベキスタン戦に向いています。岡田武史監督は負傷者や不調の選手を見極めて選手の要所を出しながら、チームを修正していくことが主な仕事になります。リーグ戦やカップ戦の過密日程で疲労が蓄積している選手も少なくない。アジア最終予選では試合の流れを変える選手交替が重要になってくると思います。

 6日のウズベキスタン戦(アウェー)から、10日のカタール戦(ホーム)、17日のオーストラリア戦(アウェー)と3連戦が続きます。日本はウズベキスタン戦に全神経を集中させてW杯出場を決めなければいけません。『取れる時に確実に取る』。これは国際大会での鉄則です。私には93年10月、カタール・ドーハで行われたアメリカW杯最終予選での苦い経験があります。当時を振り返っても、3位との勝ち点差がある現時点で、必ず出場権を獲得するべきです。

 ドーハではハンス・オフト監督の下、「自分たちはできるんだ。やるんだ」という意志をピッチ上の選手もベンチの選手も共有して、全試合に集中して臨みました。結果はみなさんがご承知の通り、W杯出場の夢は叶いませんでしたが、彼の地で得たものは非常に大きかった。相手からは「サッカーは最後まで諦めない」という気持ちを学びましたし、「サッカーは最後までわからない」ということを身にしみて勉強しました。W杯の出場権獲得は、あくまで1つ目の目標をクリアしたにすぎません。残った最終予選は単なる消化試合ではなく、数少ない真剣勝負の場です。チームの強化にむけて試すべきことは山ほどあります。まずは、ウズベキスタンで勝ち点3を挙げ、南アフリカへの切符を掴むことに全力を尽くしてほしいですね。

<総合力を見せつけるJ上位クラブ>

 Jリーグは13節まで終了し1カ月の中断に入りました。シーズンも中盤にさしかかり、上位はACL出場組や浦和レッズという地力のあるクラブが占めるようになっています。特にACL出場組は過密日程にも対応しなければいけない中、ここまで順位を上げてきました。やはり上位に進出するクラブはスタメン以外の選手層の厚さがありますね。そこがクラブ全体の総合力に繋がっている。

 また彼らはクラブとして勝つための法則というものを手にしています。自分たちが点を決めるべき時間帯や自分たちの攻撃の形を選手一人一人が理解している。勝ち試合での逃げ切り方やDFの組織がしっかりしていることはJ1で上位に食い込むための必要条件ですね。

 そんな中、開幕時から好調を持続し3位についているのがアルビレックス新潟です。04年にJ1へ昇格して6シーズン目を迎える彼らですが、上位進出の要因はやはりクラブの総合力がアップでしょう。地道な努力を続け健全な経営をしているフロントの力も含め、全体が底上げされてきた印象があります。シーズン終了後には、ACLの出場権獲得も夢ではありません。

 一方、不振を極めているのが大分トリニータです。昨季はナビスコ杯で待望の初タイトルを獲得したクラブも、今シーズンは13節を終了して1つしか勝ち星を挙げていません。ケガ人も多く苦しい台所事情です。この状況を打開するためにはメンバーを固定して戦うべきです。特にボランチよりも後ろの選手は変えないほうがいい。ここまで連敗しているのだから「これ以上負けてもどうということはない」という気持ちで開き直ってもいいのではないでしょうか。昨季のタイトルホルダーですから、元々力はあるんです。うまく歯車がかみ合うようになれば、上昇のきっかけを掴むことができる。とにかく毎試合で選手を入れ替えるのではなく、クラブの軸をしっかりと再構築し、上昇気流に乗っていくこと。これが不振からの脱出方法でしょう。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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