昨季はレイカーズ対セルティックスという古豪同士がファイナルで対決して話題を呼んだNBAが、今季は「最強選手決定戦」実現の可能性に揺れている。
 レイカーズのエースとしてすでに3度の優勝を経験したコービー・ブライアントは、2年連続のファイナル進出に向けて虎視眈々。一方で今季MVP獲得が確実なレブロン・ジェームスも、所属するキャブスを初のタイトルが狙える地点まで押し上げてきた。
(写真:「選ばれし男」レブロン・ジェームスはコービー・ブライアントの牙城に近づき続けている)
 現代を代表する2人のスーパースターが、このまま行けばファイナルで直接雌雄を決することが濃厚。コービーか、レブロンか。レイカーズか、キャブスか。今季はともに第1シードを勝ち取った両雄が順当に頂上決戦へ駒を進めれば、全米中の注目を独占するシリーズとなりそうなのである。

「NBA現役NO.1選手」の称号と言えば、過去数年間は常にコービーのものだった。1996年のプロ入り以来、前述通りファイナル制覇3度、得点王4度、MVP1度。2年半前には1試合81得点というとてつもない記録をマークしたこともあった。リーグ史上有数の才能を誇るスコアリングマシンは、紛れもなく我らの時代を代表するスーパースターである。
(写真:コービーの力ももちろんまだまだ衰えてはいない)

 しかし、そんなコービーの背後から、「選ばれし男」の異名を取るレブロンは確実に差を詰め続けてきた。2004年に米スポーツ史でも最高級の注目を浴びてNBA入り。華々しい期待に応えられないプロスペクトの方が多い中で、レブロンは莫大な期待を凌駕してしまったごく稀な例と言えるかもしれない。

 この怪物の入団以来、それまで弱小チームだったキャブスは確実に勝ち星を伸ばし、2年前には強豪ピストンズを下して初のファイナル進出。昨年にはレブロンは初の得点王に輝き、プレーオフでは後にファイナルを制覇するセルティックスを崖っぷちまで追い詰めた。昨夏には現代版ドリームチームの支柱として、アメリカ代表を北京五輪で金メダル獲得に導いた。そして今年のキャブスはシーズンのベストレコードを勝ち取り、レブロンはMVPもほぼ手中に収めている。

 弱冠24歳にしてすべてを手に入れたレブロン・ジェームス。しかしその彼が唯一まだ勝ち取っていないのがファイナル制覇である。そして未だ完全に確立したとは言えないのがコービーを凌駕しての「最強選手」の称号なのである。
(写真:レブロンは今季MVP獲得も間違いない)

 現役を代表する2人の天才プレーヤーは、その評価が最も接近した状態で今シーズンを迎えた。そして筋書き通りにそれぞれ所属チームを東西カンファレンスで第1シードに導き、ポストシーズンの舞台に駒を進めてきた。

 プレーオフ第1ラウンドでは、キャブスはピストンズに圧倒的な形で4連勝。レイカーズもジャズを4勝1敗で蹴散らし、力の差を見せつけた。今年は初戦から実力伯仲のシリーズが多い中で、この2チームだけはレベルが違う。キャブスとレイカーズのゲームを見た後では、他のすべてのシリーズが「前座」に思えてしまうほどである。

 しかもプレーオフ開幕寸前には2年前の王者・スパーズのマヌー・ジノビリ、昨季王者・セルティックスのケビン・ガーネットが相次いで故障による離脱を表明。ただでさえダントツの力を誇る2強に、さらに強烈な追い風が吹いた。

 すべての流れは、レイカーズ対キャブスの決戦実現を後押ししているように思える。「今季中にベストプレーヤーを決めろ」と、スポーツの神様がコービー対レブロン実現のシナリオを裏書きしているようにさえ思えてくるのだ。
(写真:現役頂上対決が実現すれば全米のファンが熱狂するだろう)

 近年の米スポーツ界はスーパースター不在の時代と呼べたのかもしれない。タイガー・ウッズのような国民的英雄は数えるほどで、MLB、NBA、NFLのどこを探してもその競技を越えてしまうほどの存在は見当たらなかった。スター選手たちの薬物問題ばかりが取沙汰され、そのためか個人記録は半ば無視され、むしろチームの成功の方に注目が集まることの方が多かった。

 しかし、そんな中で、実力と人気、スケールの大きさをすべて併せ持ったコービー・ブライアントとレブロン・ジェームスは、ワールドワイドなスターに昇華する素養を備えた希有な選手たちである。ヒーローは1人でよい。ここでの直接対決で勝ち残った1人だけが、「次の段階」に進む資格を得る。

 2009年6月――。世界中のスポーツファンの目はNBAファイナルの舞台に注がれることになる。そして、この季節はエポックメイキングな瞬間として、今後永く歴史に刻まれていくのだろう。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト スポーツ見聞録 in NY
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