「大山鳴動して鼠一匹」。結論から言えば、そんなところか。新型インフルエンザへの政府の対応は、あまりにも画一的だった。政府の行動計画は今回のウイルスが弱毒性であるにも関わらず強毒性を前提に作成されており、自治体や民間は1週間に渡って右往左往した。
「パラノイア(偏執症)な国」。新型インフルエンザでパニックになっている日本を指し、ニューヨーク・タイムズはこう皮肉った。
「(日本だけは)毒性の強い別の型が流行しているのか?」。大阪では新型インフルエンザに感染した高校生宛てに「日本に帰ってくるな」「賠償しろ」との電話が相次いだという。政府の過剰対応も一因だろう。危機に備えるのは当然だが、やや浮き足立ち、不安を煽り過ぎた。これは今後の大きな反省材料だ。

 翻って野球界に目を移すと、「もう少し危機感があれば…」と残念に思う球団がある。その典型例が広島の外国人補強戦略だ。チーム打率2割2分7厘(25日現在)は12球団最低。逆にチーム防御率3.05は12球団トップ。借金5の責任は明らかに貧打線にある。
 昨季限りで広島は主砲のアレックス・オチョアを解雇した。昨季、アレックスは打率3割6厘の好打率をマークし、4番・栗原健太への導火線の役割を果たした。今季から広い新球場へ移転することもあり、守備に衰えの目立つアレックスを切った。

 そこまではいい。問題は3割6厘の手当てをしなかったことだ。5月になって慌てて元西武のスコット・マクレーンを獲得したが、いかにも泥縄式だった。広島は07年にも同じ失敗をしている。深刻な打撃不振に陥り、付け焼き刃のような形で獲得したのが、中日で実績を残した先のアレックスだった。同じ失敗を何度も繰り返すのはプロではない。

 阪神も不振に喘ぐケビン・メンチの代役として元西武のクレイグ・ブラゼルを獲得する。ブラゼルは昨季限りで西武が解雇した選手だ。前半こそよかったが、徐々に調子を落とし、楽天の投手から頭部に死球を受け、それが原因で戦列を離れた。いくら米独立リーグで活躍しているとはいえ、過剰な期待は禁物だろう。
 阪神の緊急補強も泥縄式の感は否めない。もうペナントレースは交流戦の季節を迎えている。「転ばぬ先の杖」という格言がある。転んでからでは遅いのだ。

<この原稿は09年5月27日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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