6月4日夕刻、新宿ステーションスクエア(新宿アルタ前広場)で多くのファン、報道陣が見守る中、石井は『戦極』に参戦する旨の契約書にサインをした。これで正式に石井の総合格闘家としてのデビューの舞台は『戦極』のリングに決まった。
(写真:1日に『戦極』参戦を表明した石井)
 幾分、緊張した表情で彼は言った。
「いつでも闘えます。8月でも闘えと言われれば、やれます」
 スーツに身を包んではいたが、顎のライン、カラダの動きにシャープさを漂わせていた。アメリカ、ブラジルでトレーニングを積み、先日、帰国したばかり……日々のランニングも欠かさないという“練習の虫”石井らしい。かなり自信のある状態なのかもしれない。

 8月2日には、さいたまスーパーアリーナで『戦極〜第九陣〜』が開催される。ここで石井がデビューするのでは、との声もある。だが、その可能性は薄い、と私は見ている。これは石井の準備の問題ではない。主催者側が、もう少し舞台を整えたいと考えるだろうから。

 世間が大いに注目する柔道最重量級の金メダリストの総合格闘技デビュー戦である。ならば、地上波ゴールデンタイムでのテレビ放映にこぎつけたいのは当然だろう。もう少し時間をかけて準備を進めるのではないか。秋以降、もしくは2010年の1月の大会になるのかもしれない。

 では、デビュー戦の相手は誰なのか? 
 吉田秀彦と対戦か……と書きたてるスポーツ紙もあった。
「吉田との柔道・新旧金メダリスト対決はインパクト絶大でしょう」
 そんな風に話す関係者も多い。

 だが、どうだろうか。ネームバリューこそ絶大な吉田だが、既にピークを過ぎている。菊田早苗に敗れたばかりの吉田よりも、勢いのある外国人選手との闘いのほうがおもしろいのではないか。

 ジョシュ・バーネット、ジェームス・トンプソン(この2人は吉田を破っている)、そしてマイティ・モーもいる。『戦極』に参戦している外国人選手の中から考えれば、この3人との闘いを、まず見てみたい。果たして、石井が総合格闘家として、どれほどの戦闘能力を身につけているのか? その答えを導き出しやすい相手だと思うのだ。

「柔道をやめて総合格闘技に来たのだから、柔道衣は着ません」
 新宿ステーションスクエアで契約書にサインをした後、ファンの前で石井は、そうキッパリと言った。
 石井は、いかなる戦闘スタイルを身につけているのだろうか? とても気になる。どこまで強くなっているのだろうか? 早く試合を見たい。でも、じっくり待とう。石井には、最高の舞台と苛烈な闘いに導いてくれる対戦相手が用意されるべきだと思うから。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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