野球は数字のスポーツだ。試合を観なくても、いくつかの数字を提示してもらえれば、その選手がどういうタイプか、おおよその見当はつく。
 近年、米メジャーリーグにおいて「クオリティ・スタート」(QS)という野球用語が、先発投手の安定度をはかる数字として重要視されている。

 スポーツライター、ジョン・ロウの発案によるもので、先発投手が6イニング以上を自責点3以内に抑えた場合に記録される。その回数を全先発数で割ればQS率が出る。
 ちなみにメジャーリーグにおける昨季のベスト5は次の通り。
<ナショナル・リーグ>
1位 ヨハン・サンタナ(メッツ)82.4%
2位 ティム・リンスカム(ジャイアンツ)78.8%
3位 リッキー・ノラスコ(マーリンズ)71.9%
4位 ブランドン・ウェブ(ダイヤモンドバックス)70.6%
5位 ジェイク・ピービー(パドレス)70.4%
<アメリカン・リーグ>
1位 クリフ・リー(インディアンス)74.2%
2位 ザック・グレインキー(ロイヤルズ)71.9%
3位 ジョー・サンダース(エンゼルス)71.0%
4位 マーク・バーリー(ホワイトソックス)70.6%
5位 ロイ・ハラディ(ブルージェイズ)69.7%

 各球団のエース級がズラリと並ぶ。気になるのはレッドソックスの松坂大輔だ。彼は昨季18勝(3敗)をあげたにもかかわらず、QS率は48.3%と低調だった。
 要するに2回に1回の割合でゲームをつくり損なったことになる。これではエースの信頼は得られない。
 それでも18勝をあげ、負けをわずかに3つに抑えることができたのは、リリーフ陣に助けられたことに加え、強力打線の援護射撃があったからに他ならない。

 ではNPBの昨季はどうだったか。
<パシフィック・リーグ>
1位 ダルビッシュ有(日本ハム)87.5%
2位 岩隈久志(楽天)82.1%
3位 和田毅(ソフトバンク)73.9%
4位 小松聖(オリックス)72.7%
5位 帆足和幸(西武)69.2%
5位 岸孝之(西武)69.2%
<セントラル・リーグ>
1位 石川雅規(ヤクルト)75.9%
2位 コルビー・ルイス(広島)73.1%
3位 セス・グライシンガー(巨人)71.0%
4位 館山昌平(ヤクルト)66.7%
4位 下柳剛(阪神)66.7%

 セ・リーグにはQS率80%を超えたピッチャーがひとりもいなかったが、パ・リーグにはダルビッシュと岩隈、2人いた。この2人は連覇を飾った野球の国・地域別対抗戦WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で松坂と先発3本柱を形成した。彼らが日本球界のエースであることはQS率がはっきりと証明していた。

 では、今季(5月15日現在)は? まだシーズン序盤ということもあってQS率100%のピッチャーがセ・パ合わせて6人もいる。
 セは館山(ヤクルト)、チェン・ウェイン(中日)。パは田中将大(楽天)、ダルビッシュ(日本ハム)、岸田譲(オリックス)、唐川侑己(ロッテ)。セよりもパのほうにQS率の高いピッチャーが多いのは、DH制によるものだろう。

 6人のQS率100%ピッチャーの中でも特筆に値するのがマー君こと田中将大だ。
 5月15日現在、早くも4完投をマークしている。もちろん、これは12球団トップ。完封も2つある。
 しかし、まだ楽天・野村克也監督から完全な信頼を得るところまではいっていないようだ。
 去る5月13日、マー君は14日ぶりに先発復帰を果たした。一時、マー君は右肩の張りを訴え、出場選手登録を抹消されていた。
 しかし、さすがはマー君。復帰登板で日本ハムを7回3失点に抑え、開幕5連勝をマークした。“病み上がり”としては上々のピッチングだった。にもかかわらず試合後、ノムさんに頭をはたかれてしまった。
「7回でいっぱいというから“何ぃ!”ってなった。完投しなかったから、ちょっと小突いたんだ」

 稲尾和久(故人)や杉浦忠(同)ら“投げれば完投”が当たり前の時代を知るノムさんには、先発投手の責任イニングを6回と定めたQS率なんて眼中にないのかもしれない。
 だが、打撃技術の発達した昨今、完封はもちろん完投も容易ではない。近い将来、先発投手の査定の対象にQS率が組み込まれることは目に見えている。

<この原稿は『Voice』09年7月日号に掲載されたものです>

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