香川は現在、首位・長崎と1ゲーム差の2位。開幕当初は勝ったり負けたりの時期もありましたが、投手陣に関しては、ほぼ最初の構想通り、各選手が役割を果たしているのではないでしょうか。エースの福田岳洋はケガで少し離脱しているものの、左の松居伊貴、右の高尾健太と先発がきっちりゲームをつくれています。

 中継ぎ以降も5年目の橋本亮馬に、ルーキーの久代幸甫(ヒタチエクスプレス)、上野啓輔(レンジャーズ傘下)が頑張っています。中でも上野は夏場以降、もっと登板機会を増やしたい投手のひとりです。

 というのも投手には登板間隔がある程度空いたほうがいいタイプと、可能な限り投げさせたほうがいいタイプがいます。上野は典型的な後者です。休み明けの金曜日はだいたい制球が悪く、土、日と試合を重ねることでコントロールが良くなっています。間隔が空くことで、いい状態が一度、リセットされてしまう印象を受けるのです。

 僕も現役時代は、連投を好むタイプでした。NPBの場合、基本は火曜から日曜までの6連戦。そこまで間隔は空かないとはいえ、休み明けの火曜日のゲームは不安でした。わずか1日の休みでも、いい感覚を忘れてしまう気がしたからです。だから上野の状態は、よく理解できます。

 上野の課題は制球力。これは実戦の中で磨いていくしかありません。極端な話、今の彼にブルペンでの投げ込みは必要ないと考えています。夏バテ対策として走り込みをしたおかげで、連投可能な下半身はできてきました。後はブルペンではなく、本物のマウンドでバッターを相手に投げることが成長の近道です。彼には今後、3連戦のうち2試合登板、または3連投の機会をつくりたいと思っています。

 さて、ファンの皆さんの中には、元巨人・深沢和帆の不調を心配している方もいらっしゃるでしょう。ここまで15試合に登板して防御率は5.31。14日の長崎戦では先発したものの、4回途中2失点で5四球の内容でした。元NPB選手として、開幕前から彼に対する周囲の期待は高いものがありました。当然、本人はプレッシャーを感じていることでしょう。しかし、思ったような投球ができない。結果を求めるあまり、自分のスタイルを見失い、悪循環に陥っているように映ります。

 こういう時はシンプルに考えるのが一番です。「今はとにかくコントロールを磨こう」。彼にはそう伝えました。3年前、深沢は速球を武器にアイランドリーグで活躍し、巨人からドラフト指名を受けました。しかし、最終的に1軍に上がれなかったのは制球力がなかったから。スピードは出そうと思えばいつでも出ます。7、8分の力でもコントロール重視で抑えられれば、投球の幅は広がるはずです。

 三振をとるには最低3球必要ですが、バッターに打ってもらうと1球で1つのアウトを稼ぐことができます。打たせてとるテクニックを覚えることは自分をラクにします。本人は不本意かもしれませんが、理想をあれこれ追い求めていては、現状からは抜け出せません。現実にあるハードルを1つずつクリアすることに集中できれば、きっと道はひらけます。

 前期は残り5試合。昨年コーチを務めた長崎との優勝争いは個人的にうれしいものです。特に酒井大介、藤岡快範、土田瑞起と長崎時代に期待していた投手が、しっかり先発の柱を務めています。12日からの首位攻防では、そんな彼らとしびれるような好ゲームができました。ここからはもっとしびれる試合が続きます。西田真二監督が言っていたように、ここからは負けたら終わりのトーナメントと一緒です。投手起用もスクランブル体制で臨みます。

 もちろん目指すは逆転優勝。ファンの皆さん、球場でたくさんの声援をよろしくお願いします。


岡本克道(おかもと・かつのり)プロフィール>: 香川オリーブガイナーズコーチ
 1973年6月9日、大阪市出身。柳ヶ浦高時代は甲子園に2度出場。東芝を経て97年、ドラフト5位で福岡ダイエー(現ソフトバンク)に入団。直球を武器に1年目から52試合に登板し、19セーブをあげる。2年目も21セーブをマークし、リリーフエースとして活躍した。03年には阪神との日本シリーズで5試合に登板して無失点。日本一に大きく貢献した。06年オフに戦力外通告を受け、その後引退。08年より長崎のコーチにとなり(途中で解任)、今季より香川のコーチに就任。現役時代の通算成績は291試合、17勝16敗51セーブ、防御率2.98。


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