6月15日、日本の自転車界にとって素晴らしいニュースが飛び込んできた。
「新城幸也、ツール・ド・フランス出場決定!」。私も思わずそのリリースを読みなおしてしまった。サイクルロードレースの頂点ともいえるツールに日本人が出場するのは1996年の今中大介さん以来3人目。久々のビックニュースに一般メディアも含めて自転車界は大いに盛り上がった。
(写真:4年連続で世界選手権に出場するなど着実に実力を高めてきた新城)
 昨年末に、フランスのプロチームである「Bboxブイグテレコム」への移籍が決まった時も業界では話題をさらった。世界に18しかないプロチームに入ることは、ロードレース界でのメジャーデビューであり、才能豊かな新城選手に大きな期待が寄せられた。しかし、まだ移籍1年目。ヨーロッパで実績が多少あるとはいえ、トッププロのレースでどこまで走れるのかは未知数だった。本人も、関係者も「09年はブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン1周レース)に出場し、ツールへの足掛かりをつかめれば」という感じだったようだ。しかし、初年度から大舞台への抜擢が決まった。
 
 ここで特に評価すべきはフランスのチーム内で新城が選ばれたということ。今や国際的なスポーツであるロードレースだが、このブイグテレコムというチームはフランス勢で選手を固めることが多い。ましてや国内最大のレースであり、世界最高の舞台であるツールには、フランス人選手中心の編成でくることは周知の事実だった。ここに日本人選手が選ばれること自体が異例で、フランス国内でも話題になっているとか。

 さらに、今回は出場メンバー9人のうちの6名の先行発表。つまり、ギリギリ入ったわけではなく、中心メンバーとして選ばれたことがわかる。このことから、彼がいかにチーム内での評価を集めているか推しはかることができるのだ。メンバー発表時の「正直言うと、これほど才能のある選手だとは当初予想していなかった」という監督のコメントが表しているように、当初、新城のチーム内評価は高いものではなかった。しかし、春先からダンケルクやドフィネリベレという大きなレースで活躍し、自らをこのポジションに押し上げたのだろう。

「これは驚くべき結果ではない」と話すのは、昨年まで彼を育ててきたエキップアサダのゼネラルマネージャー浅田顕氏。「彼はロードレースを始めてからすぐにフランスに渡り、そこでレースを学んでいます。なので、日本人ではあるけどロードレースの世界ではフランス育ち。そして、現地で小さなレースからここまで積み上げていきているので、フランス国内の自転車関係者は彼の走りをよく知っています。決して新参者でもないし、春先から“彼ならツールいけるのでは?”という空気はあったんですよ」と語る。そう、新城にとってツールはアウェイの戦いでなく、ホームゲームに近いのだ。

 発表時、フランスで合宿中だった本人は、ブログのアクセス数の急増に日本での反響の大きさを感じたという。相変わらずマイペースな男である。そして今日(18日)にも帰国し、今月末の日本選手権に出場、日本チャンピオンジャージを着てツールにのぞむプランだとか。周囲からは「余計なことして怪我しないで!」との声もあるようだが、いつもの彼らしく、ポジティブに走り続ける。
(写真:昨年11月に石垣島で開催されたアースライドにて。右が新城、中央が筆者)

 さて、今年はもうひとり、スキルシマノの別府史之もツールへの出場が有力視されている。発表は今月末になりそうだが、確率は相当高いようだ。だとすると、日本人が2人出場するツール・ド・フランスという歴史的な瞬間を目撃できることになる。
 7月はフランスから目が離せない!!


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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