5月が自転車月間だというのはご存じだろうか? 残念ながらあまり認知されていないようだが、自転車普及協会を中心にそういうことになっており、さまざまなイベントが開催されていたりする。ちょうど今週は、大阪から東京にかけて1週間にわたって繰り広げられるツアーオブジャパンなども開催され、新聞などで目にする機会もあるだろう。いや、そうあって欲しい!?
 日本は自転車保有台数が7千万台を超え、国民1.8人に1人が自転車に乗る自転車大国。しかし残念ながら自転車をスポーツとしてとらえる視点は極めて少ない。移動手段という定義が強すぎるのが最大の理由だが、ほかにも「競輪」というスポーツがメジャーすぎて、あの屈強な選手のイメージとギャンブル的要素が色濃かったのも理由のようだ。
(写真:こちらはハワイにある自転車スタンド。このタイプの自転車をくくりつけるスタンドが街のあちこちに)

 つい10数年前までは自転車のイベントなどに行っても参加者のほとんどが男性。女性がいると目立つことこの上なしだった。ところが近年は、ようやくそのような偏った状況も解消され、女性サイクリストの姿を見かけることは珍しくなくなった。そのお陰で、スポーツサイクルの売り上げは伸びる一方、ここ数年は毎年のように過去最高の販売台数をみせている。

 しかし、自転車はあくまでも道具。これをどう扱うかでフィットネスの道具にも、競技のマシンにも、走る凶器にもなりうる。そう、自転車が増加するにしたがって乗る人のマナーや認識不足の問題も浮上してきた。
(写真:近くによると、「自転車限定」と書いてあり、自転車の市民権を示している)

 基本的に軽車両である自転車は歩道でなく車道を走るもの。ところがこのことを知らない人が多く、まだまだ車道より歩道を走っているほうが目立つ。確かに車のほうも自転車が車道を走るものという認識がなく、車道を走る自転車に「幅よせ」などの意地悪をする輩も少なくない。サイクルスポーツを行っている人で、車にそのような行為をされた経験がない人を探すのが難しいくらいだ。これは車のほうに問題があり、ドライバーの意識の転換を図る必要がある。強者が弱者を保護するのが人間社会の基本精神。ぜひ、免許更新講習などでも告知徹底してほしいものだ。
(写真:オークランドの街中を走るバスの後ろにはこんな表記が……)

 ところが歩道に乗ったとたん、今度は自転車が歩行者に対して強者となる。つまり自転車は歩行者をいたわる責任があるわけだ。なのに、自転車で歩道をかっ飛ばしたり、無理矢理な追い抜きをするなど歩行者に恐怖を与えるような行為をする人が少なくない。こうなると楽しいスポーツの道具から、「凶器」へと変わってしまう。自転車を乗るものにとって、このことは肝に銘じておきたい。

 先月、ニュージーランドの大きなサイクリングイベントに行ってきた。この国では人口が少なくて道路事情に恵まれているというのもあるが、自転車に関して羨ましいほどマナーが確立している。車道を走っていても、滅多なことがない限りクラクションを鳴らされないし、都市部ではバイクレーンもきっちりと整備されている。
(写真:街中にあるバイクレーン)

 また、乗り手の意識、技術も高く、自転車をふらふらさせず、まっすぐにきっちり走らせることのできる人が多い。このあたりは、社会の自転車に対する常識の違いが大きく影響し、自転車歴を増すごとに大きな差になっていくのだろう。普通のおばさんや、太めのおじさま方が私と一緒に時速40kmを超える集団の中で走っているのだから日本では考えられない!?  もっとも、日本国内ではまともに2列で走ることができる道など少ないので、結局いつまでたっても他人と走るのがうまくない人が多いのも事実だが……。

 社会の常識、乗り手の意識、個人の力量、このすべてが変化を遂げたとき、日本が本当の自転車大国になることができるのであろう。
 自転車はどんなにいいものを購入しても、最後はどんなところでどういう風に乗るかが重要になる。気持ちよく自転車に乗れる国になるのはもう少し時間がかかりそうだが、変化の兆しは確実にあると期待したい。


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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