全米一の人気チームであるレイカーズと上昇一途のマジックが対戦した今季のNBAファイナルは、レイカーズが4勝1敗で圧勝。伝統フランチャイズの威厳をまざまざと見せつけ、15度目のファイナル制覇を達成した。
 最終戦となった第5戦は敵地オーランド開催だったというのに、試合後のアリーナはレイカーズのための一大パーティ会場となった。勝利が決まった瞬間、コービー・ブライアントが大きくジャンプして拳を突き上げたシーンは、今年のスポーツ界でも最大級のハイライトとして記憶されていくだろう。長いシーズンの終わりに相応しい、それは華やかで感動的な光景だった。
(写真:NBA頂上決戦の熱気に全米が包まれた)
【コービーの悲願成就】

 すでに3度もファイナルを制覇し、さらにシーズンMVP、得点王、北京五輪での金メダル……とコービー・ブライアントはこれまでNBA選手として考え得るすべてのものを獲得してきた。しかしその一方で、「シャキール・オニール抜きでは勝てない選手」として呼ばれてきたのも事実である。

 しかし今季のファイナルでは、レイカーズ絶対のエースとして見事なオール・アラウンドゲーム(32.4得点、5.6リバウンド、7.4アシスト)を披露。さらに熱い闘志で周囲の若手たちを引っぱり、フィル・ジャクソンHCから「コービーはリーダーらしくなった」と賞讃を受けた。

 シャックとコンビを組んで勝ち取った最後のタイトルから8年が過ぎ、大黒柱として初めての戴冠。これでもう「わがままなエース」などと批判されることもなくなる。本人はシャック絡みの陰口が「水が額にぽたぽた落ちてくる中国の拷問を受けているようだった」と精神的にこたえていたことを認めたが、もうそんな声に惑わされる必要もない。自身の価値を再証明した2009年は、コービーにとってまさにキャリア最高のシーズンとなった。
(写真:優勝決定後、コービー・ブライアントは笑顔を抑え切れなかった)

【フィル・ジャクソンが史上最多勝コーチに】 

 コービーにとってだけでなく、レイカーズの名将フィル・ジャクソンにとっても今季の勝利はメモリアルなものとなった。
 ジャクソンはこれでコーチとして通算10個目のチャンピオンリング獲得。セルティックスの往年の名将レッド・アウアーバックの記録を上回り、優勝回数でリーグ史上単独トップに躍り出たのである。

 これまでの9度はすべてマイケル・ジョーダン、シャキール・オニールといった歴史的ヒーローを擁しての勝利。コービーと同じく「スター頼みのコーチ」という陰口はあっただけに、若い選手が多いロースターを率いての栄冠はうれしかったはずだ。しかし、それでもジャクソンは、第5戦後の会見で「(結果よりも)チームが成長して行く過程が重要なんだ」と含蓄のあるコメント。「禅マスター」と呼ばれる知将は、最後までクールさを貫き続けたままNBAの頂点に立った。そしてそんな姿勢が一層の貫禄を感じさせたのも事実である。

【歴史は繰り返す】

 今シリーズ最大の大接戦となった第4戦は、最終Qも残り時間11秒の時点でマジックが3点をリードしていた。しかしここで若き大黒柱のドワイト・ハワードがフリースローを2投とも失敗。1投でも決めていれば勝利は確定的だった場面でのミスが響き、その後、レイカーズは逆転勝利を許してしまった。
(写真:ドワイト・ハワード(写真はボブルヘッド)のフリースロー失敗もまた歴史に刻まれてしまうだろう)

 シリーズの行方を決定づけたこの試合の終盤を見て、14年前のファイナルを鮮烈に思い出したNBAファンは多かったはずである。
 マジックが創設後初めてファイナルに進出した1995年。その第1戦ではロケッツを相手に終了間際まで3点をリードしていた。しかし残り10秒からニック・アンダーソンがなんと4投のフリースローをすべて失敗した。そこからの逆転負けで第1戦を落としたマジックは、そのままロケッツに屈辱のスイープ負け。この敗北でフランチャイズ全体が大きなショックを受けてしまい、以降は長い低迷にあえぐことになってしまった。

 時は流れ、2009年。手痛いミスを犯したハワードはまだ伸び盛りの23歳だけに、このまま自信を失って低迷することは考え難い。ただ今季のマジックも14年前と同じく、チーム全体が経験不足、未成熟だったのは事実。さまざまな意味で、数奇な運命のいたずらを感じさせる痛恨の敗北だった。

【今後のNBA】

 今季、人気、実力を兼ね備えたレイカーズが新王座についたことで、来季以降のNBAはより一層の盛り上がりが期待できる。
 コービーというスーパースターを擁した最強軍団が、今度は連覇という新たな夢を追いかける。一方でハワード、ラシャード・ルイス、ジャミーア・ネルソンらのヤングスターが引っ張るマジックも、今季の経験を糧に再びタイトル争いに絡んでくるはず。「ビッグスリー(ケビン・ガーネット、ポール・ピアース、レイ・アレン)」がラストダンスを期すセルティックスもまだまだ侮れない。
(写真:穏やかなフロリダのファンに見守られて、マジックは来季も優勝争いに絡んでくるはずだ)

 さらにレブロン・ジェームス率いるキャブズも、今プレーオフでの屈辱を味わったまま黙ってはいないはず。もちろんウエスタン・カンファレンスにも、ナゲッツ、スパーズ、ロケッツら今後が楽しみなコンテンダーが揃っている。
 ネームバリューではダントツのレイカーズを目指し、フレッシュなコンテンダーたちが凌ぎを削る。そんな構図はビジネス的に考えてもNBAが最も喜ぶ形であり、そしてもちろん見ている側にとっても楽しみに違いない。

 来年の今ごろまでに、レイカーズにとって最大の脅威として浮上しているのはどのチームか。NBAファンには楽しみなシーズンが、今後しばらくは続いていってくれそうである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト スポーツ見聞録 in NY
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