40歳のオールドルーキー高橋建(メッツ)が元気だ。6月15日現在、貴重なサウスポーの中継ぎとして14試合に登板している。
 14日のヤンキース戦では0−14と大量リードされた7回1死満塁から登板し、松井秀喜から三振を奪った。

 サウスポーの中継ぎなら、当然、左のスラッガーとの対戦が多くなるが、彼の真の敵は自らの“体内”にある。実は彼はゼンソク持ちなのだ。
 発病したのは小学校入学の頃。「呼吸ができなくて本当に苦しかった。子供心ながら、このまま死んじゃうんじゃないかと思った」というくらいだから、相当ひどかったのだろう。
 高校は名門、横浜高。本人によれば「ヒーヒーいいながら投げていた」。大学(拓大)、社会人(トヨタ自動車)を経て広島に入団したが、簡単に完治はしない。
「キャンプ中に発作が出て、練習を休んだこともあった」という。「最近でひどかったのは3年前。中継ぎの役割を与えられていたんですが、2週間くらい登板できなかった。1軍にいるから別メニューでの調整を余儀なくされました」
 アメリカでも「ゼエゼエ」は続いているようだ。6月の前半は体調を崩し、肩で息をしながら投げていた。

 昨年の夏、本人と“ゼンソク談議”をした。なぜなら、かくいう私もゼンソク患者なのだ。こっちは3歳の頃からだから年季が入っている。
 ゼンソクは、ひとたび発作が起きると苦しくて横になることもできない。夜通しゼエゼエ、ヒーヒー言っているわけだから、看病する方も大変である。
 治療法について訊ねると「特にはしていない」という答えが返ってきた。
「昔から悪くなると病院に行く程度で、発作を抑える吸入器などはあまり使ったことがない。ただカミさんが布団を干すなど、環境には気を使っています。」
 ゼンソクの原因は人それぞれ。ハウスダストの場合もあればタバコの煙や排気ガスが原因の場合もある。私もいろいろと検査を受けたが、今にいたるも判然としない。

 高橋はカープで14年間プレーしたが、2ケタ以上の勝利をあげたのは2001年の1度(10勝8敗)だけ。シーズン途中で体調を崩すことがよくあった。ゼンソクが原因だったのかもしれない。
 とはいえ、40歳の今も現役を張り続けているのは大したものだ。しかも夢にまで見たメジャーリーグの舞台で。渡米前、ゼンソクとの付き合い方について聞くと、こう答えた。
「僕は“病は気から”だと思っています。小さい頃から“明日、病院に行くよ”という日に限って発作が出ていました。ですから、まずは気持ちをしっかり持つ。これが大切だと考えています」
 高橋の奮闘は多くのゼンソク患者に勇気を与える。目指すのは日本人メジャー最高齢勝利投手である。

<この原稿は2009年7月5日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから