この采配は“監督のファインプレー”と言っていいだろう。
 6月14日、西武ドームでの西武対広島戦。得点は4対4。延長12回裏、広島は無死満塁のピンチを迎えた。絶体絶命の場面である。

 左打者の石井義人を打席に迎え、監督のマーティー・ブラウンはピッチャーをサウスポーの青木高広に代えた。
 もうひとりの交代要員としてレフトに内野手の小窪哲也。彼には2塁ベース手前を守らせた。つまり内野5人、外野2人というフォーメーションである。
 これがまんまと図に当たった。石井義の代打・黒瀬春樹の快音を発した痛烈なピッチャー返し。通常ならセンター前タイムリーでサヨナラの場面だが、何と打球の正面には小窪がいた。記録上は7−2−3の併殺。ブラウンの奇策に救われた青木はその後も踏ん張り、かろうじて引き分けで試合を終えた。

 フォーメーションと聞けば、やれ4−4−2がいいとか3−5−2がいいとかワントップがいいとかサッカーのことが頭に浮かぶが、野球にも“修羅場のフォーメーション”というものは存在する。カープは財政的に恵まれた球団ではないが“カネはなくても知恵がある”だ。
 カープと言えば忘れられないのが“王シフト”だ。
 1964年5月5日、当時、カープの指揮を執っていた白石勝巳はホームランを量産する王貞治が打席に入るや、奇抜なフォーメーションを指示した。サードを三遊間に寄せ、ショートを2塁ベース後方、セカンドを1、2塁間深めに配置したのである。ファーストは1塁ライン際だ。
 これに驚いた王は平常心を失い、この日は4打数ノーヒットに終わった。王の打球方向を調べ上げた末の苦肉の策だった。

 さてブラウンといえば退場のシーンばかりが話題に上るが、なかなかの策士である。12球団最低の年俸総額で5割をキープ(6月14日現在)しているのだから、もっと評価されてしかるべきだ。

<この原稿は『週刊大衆』09年7月6日号に掲載されたものです>

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