見応え十分な大会だった。
 8月2日、さいたまスーパーアリーナで開かれた『戦極〜第九陣〜』のことである。5時間を超す長いイベントだったが、観る者に時間が経つのを忘れさせる熱いファイトが続いた。過去9回の大会を振り返っても、今回がベストな内容だったように思う。
 初代戦極フェザー級王者に就いた金原正徳。敗者復活ではあったが、集中力を最後まで切らさなかったメンタリティの強さは高く評価されよう。決勝で敗れた小見川道大も大健闘だった。スプリット・デシジョン(2−1)が示す通り、金原戦は実質ドロー。今回のフェザー級トーナメントを闘い抜く中で小見川は一皮むけた。今後が楽しみな選手になった。

 もう1人、準決勝で金原に勝つも、ダメージが大きく決勝の舞台に上がれなかった日冲発だが、実力(技術)的には戦極フェザー級のトップであることは明らか。巻き返しに期待したい。
 丁度、同じ時期に『DREAM』でもフェザー級トーナメントが進行している。トータル的なレベルにおいては『DREAM』のフェザー級戦士の方が上だろう。しかし、金原も、小見川も、日冲もマルロン・サンドロも闘志でファンを魅了した。闘いに賭ける熱さでは負けていなかった。是非とも『DREAM』と『戦極』フェザー級王者対決を実現させてもらいたい。

 さて、第6試合終了後に、柔道での実績を誇る4人のファイターがリングに上がった。吉田秀彦、瀧本誠、泉浩、そして石井慧。全員が五輪の金・銀メダリスト、豪華な顔ぶれだ。そこでマイクを手にした石井は言った。
「初戦で闘いたい人が、この中にいます。それは泉先輩……ではありません。あとは戦極にお任せします」
 泉でなければ、吉田か瀧本。だが、瀧本とは階級が異なる。石井が吉田と闘いたいと言っているのは明らかだ。『戦極』の主催者サイドは「石井のデビュー戦の相手は吉田」の線で動いているようだ。

 この連載で以前にも書いたが、私は石井のデビュー戦の相手は、もっと勢いのある選手の方が良いように思う。ジェームス・トンプソンに倒され、菊田早苗に敗れた吉田は、ネームバリューこそあれ、下り坂の選手である。これから総合格闘技の舞台に羽ばたこうとしている石井が、何もデビュー戦で柔道の先輩である吉田の息の根を止めにいく必要はないだろう。

 柔道家同士が総合格闘技のリングで闘う姿を私は見たくない。いや、見たい柔道家対決もあった。2005年大晦日の吉田×小川直也戦には闘う意義があった。2人の柔道家時代の関係、そして、プロになった後の両者の立ち位置の違いが、闘いを必然にし、観る者の興味をひいた。でも石井は吉田と闘わなくてもいいだろう。実力よりもネームバリューが先行する現在の吉田を標的に……というのでは志の高さがうかがえない。世界は広い。強い奴は、いっぱいいる。ジョシュ・バーネットに、キング・モー、ヴァレンタイン・オーフレイム、トンプソン……。彼らにぶつかっていった方が、よっぽど格好良い、大器・石井のデビュー戦に相応しい、と私は思うのだが。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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