後期の戦いもそろそろ折り返し地点。愛媛は6勝12敗で最下位に沈んでいます。特にお盆期間の4連戦4連敗は想定外でした。どうすればチームを立て直すことができるのか……。思うように結果が出ず、悩みは大きいです。
 波に乗れない大きな原因は攻撃陣にあるとみています。投手陣はそこそこ頑張っているのですが、なかなか点がとれません。投打がかみ合わない状態が続いています。特に昨季、後期優勝を経験した長崎準平大島慎伍檜垣浩太といった主力に大事な場面で一本が出ません。個々の戦力では他球団に劣っていないにもかかわらず、この差が勝ちきれない要因となっています。

 力があるのに試合で結果が出ないのはなぜでしょうか? それは練習で積み上げてきたことを、試合で出せていないからです。結果がほしいと考えるあまり、どうしても練習とは違う野球をしてしまっています。たとえばバッティングに関して、いつも10の力でフルスイングをしているだけでは相手のボールを打ち返せません。時としては8の力で軽打することも必要になります。

 特にチャンスの場面では、自然と力が入るもの。意識としてはより軽くスイングすることが求められます。ところが成績の悪い選手は、ここで力みすぎてしまうのです。相手が苦しい状況なのに、自分で自分を追い込み、打ち損じてしまう。選手たちには、もったいない打席が目立っています。

 確かに個々人が練習で取り組んでいる内容の中には、違和感を覚えることも多いでしょう。目先の試合を考えると元に戻したくなる気持ちは分からないわけではありません。しかし、この違和感は正しい方向に向かっている証拠です。彼らは、これまでの野球人生の中でさまざまな悪いクセを身につけてしまっています。だからこそNPBではなく、このリーグにいるわけです。欠点を修正しない限り、上のレベルには進めません。

 選手には違和感が自然になることこそ、成長の証だと思ってほしいのです。こちらとしても正しい方向に進んでいる選手には、すぐに結果を求めようとは考えていません。ですから、まず彼らには練習で取り組んできたことを我慢強く継続してほしいと思っています。そうすれば、結果は後からついてくるはずです。

 そんな愛媛に、また新たな強敵が立ちふさがることになりました。23日の高知戦、メジャーリーグでも活躍した伊良部秀輝との対戦が予定されています。現役時代、彼とは何度か対戦の機会がありました。当時の伊良部はボールの速さだけなら、球界ナンバーワン。後にも先にも、実際に打席に立ったピッチャーの中で彼ほどボールが速く感じた選手はいません。

 あれから20年が経ち、伊良部も40歳になりました。丸4年のブランクを考えると、往年のボールは投げられないでしょう。しかし、145キロ前後のストレートを放るとの話も聞いています。実際に見てみないとわかりませんが、これが事実であれば、今のアイランドリーグにそんな速球派はいません。振り負けないよう、しっかり対策を練らなくてはいけないでしょう。

 ただ、日米106勝の実績だけで勝てるほど、野球は甘くありません。今年の高知には中日や楽天でプレーしていたドミンゴ・グスマンが入団しましたが、愛媛は初対決で立ち上がりに3点を奪っています。彼はストレートに威力があったものの、変化球の精度がイマイチでした。高めのストレートに手を出さない。これを徹底することで充分、攻略の糸口はつかめました。

 伊良部に関しても速いストレートと変化球のコンビネーションで攻めてくることは間違いありません。ウイニングショットで使ってくるであろうフォークをいかに見極めるか。ここがポイントになるはずです。40歳という年齢を考えれば、小技を絡めることも効果的でしょう。相手が伊良部といっても臆することはありません。僕たちはしっかりと勝ちにいきます。

 低迷を脱するには、何よりチームがひとつの方向にまとまって戦うことが大切です。その上でひとつひとつ勝ちを重ねていくしかありません。この点で、伊良部との対戦はチームが改めて一丸になれるチャンスとも言えます。ぜひ彼を攻略して、浮上のきっかけをつかみたいところです。

 ファンのみなさんも23日を楽しみにしていてください。僕も選手も試合を心待ちにしています。


沖泰司(おき・やすし)プロフィール>: 愛媛マンダリンパイレーツ監督
 1961年1月5日、松山市出身。松山商、明治大を経て社会人のスリーボンドで頭角をあらわし、チームの主軸を務める。86年ドラフト4位で内野手として日本ハムファイターズに入団。90年の退団までに投手以外のポジションは全てこなし、ユーティリティプレーヤーとして活躍した。アイランドリーグでは初年度に愛媛マンダリンパイレーツのコーチを務め、2年目からは監督に就任。07年シーズンは前後期ともチームを2位に押し上げ、08年は悲願の初優勝(後期)に導いた。






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