第210回 「追われる側はキツい」の正体とは?

facebook icon twitter icon

 9月28日(土)、J1の首位を走るFC町田ゼルビアと2位・サンフレッチェ広島の直接対決がありました(※対戦前の順位)。勝ち点だけを見れば59で並んでいましたが、広島が2対0で勝利。広島が首位に立ち、町田は3位に順位を落としました。非常に痺れる試合展開となった両雄のぶつかり合いを語りましょう。

 

 消極的プレーの理由

 

 追う広島と追われる町田という構図のもとゲームがスタート。優勝争いを経験した者としては、追う方の思考は至ってシンプルなもの。一方、追われる方は少々、難しい立場となるのは重々理解できました。

 

 追われる方は、2位以下のチームによるプレッシャーはあまり考えずに目の前の試合に集中すべき……。なのですが、頭ではわかっていても、そう簡単にはいきません。やっぱりどこか意識してしまうものです。

 

 これが直接対決となるとより一層、悪い方向に作用します。「ボールを奪われてはいけない」「相手に得点を奪われてはいけない」と考え、プレーが消極的になることもしばしば。よく“追われる側はきつい”という言葉を見聞きします。その正体は周囲の雑念、順位など置かれた状況、優勝からの逆算……などから消極的なプレーを選択し、結果として相手を押し込めず逆にこちらが押し込まれてしまう。こういった負の連鎖を生んでしまうところにあると僕は考えます。

 

「直接対決に勝ったら臨時勝利給」などの目の前にわかりやすい“にんじん”をぶら下げることも手だと思います。プロの場合、“余計なことは考えずに勝てば臨時ボーナス”と目の前の戦いに集中させる手立てもありますね。チームがタイトル獲得となれば、スポンサーも喜びますから。これがプロの世界の一側面でもあります。

 

 谷と大迫のパフォーマンス

 

 一方、追う側はいたってシンプルです。“ここで勝てば順位が入れ替わる”というシチュエーションならなおさらです。この日の広島の団結力は見事でした。「やってやる!」という意気込みのもと、攻守において統制が取れていました。後半、町田にシステム変更を余儀なくさせたあたりも広島にとって追い風となりました。町田本来の恐さがシステム変更により、少々削がれた感が見受けられました。

 

 それでも試合全体が引き締まったのは両チームのGKの活躍に依るところが大きかった。町田のGK谷晃生と広島のGK大迫敬介のパフォーマンスは素晴らしいの一言に尽きます。日本代表の下田崇コーチが視察に来ていたこともモチベーションになったでしょう。「パリ五輪世代のふたり(鈴木彩艶と小久保玲央ブライアン)だけじゃなくて、オレたちもいるぞ」と意地を見せたように僕には映りました。

 

 触れておかなければならないのは古巣の鹿島アントラーズについて。アウェーでの湘南ベルマーレに2対3と逆転負けを喫しました。特に2対0とリードで迎えた前半終了間際の1失点は痛かった。あのタイミングで得点を許し、ハーフタイムに入る。相手はロッカールームで「行けるぞ!」と士気が高まっているのは容易に想像できます。そして15分後、テンションマックスの状態でピッチに姿を現します。1失点目、3失点目とボランチ、DFラインの統制不足を感じました。当たり前のこと、普通過ぎることでさえも凡事徹底を忘れず、声を掛け合うことが必要かなと思います。

 

 さて、アントラーズに関する明るい話題を1つ。この試合、右サイドバックの濃野公人が2ゴールを決めました。これで彼はリーグ戦9得点。以前、濃野の嗅覚についてこのコラムでも触れました(その回はこちら)。僕は、2ケタ行くと思います。もし濃野が2ケタ達成しなかったら、謝罪文をかかねば(笑)。そう思わせてくれるほど、彼には期待しています。2列目、3列目からエリア内に飛び込む大切さを体現しているのが、濃野なのではないかと思います。ビルドアップに関われるサイドバックは増えてきましたが、フィニッシャーになれるサイドバックはなかなか珍しいですね。

 

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。

 

facebook icon twitter icon
Back to TOP TOP