夏場をいかに乗り切ることができるか――。これはJリーグを戦う上で非常に大切なことです。8月が終わろうとしている今、冒頭の言葉の持つ意味が各クラブの成績にはっきりと表れています。

 首位の鹿島アントラーズは、8月のリーグ戦は2勝3敗。今月に入るまで1敗しかしていなかったチームですから、見方によれば大きな失速ともいえます。しかし、今月の成績では負け越したとはいえ、首位を堅守し2位との勝ち点差が7という事実を見逃してはいけません。実際、7月末の時点で2位との差は10でしたから、実際、大きな痛手にはなっていません。ここまで上位を争ってきた新潟や浦和も今月は以前ほどの勢いを持って追撃できていません。およそ9カ月間の長いシーズンを通して良いコンディションを保ち続けるのは至難の業です。調子が下降線に入る時期は確実にあります。そこをいかに乗り切ることができるかが、勝負の分かれ目になります。

 鹿島が首位をキープしている理由は、シーズン序盤にしっかりと貯金を作っていたことにつきます。前半戦から混戦模様の方がリーグ全体が盛り上がるのはわかります。しかし、優勝を狙うクラブが常に優位に戦っていくためには、先手を取る事は必須条件といえます。鹿島は2連覇を果たしていることもあり、勝ち方をよく知っている。言葉は悪いかもしれませんが、調子が下り坂だった8月を無難に乗り越えましたから、残り10試合は上がっていくだけでしょう。試合を見ていても、戦い方やチームの雰囲気が悪いというようには見受けられません。暑さも去り、実力を発揮しやすい秋の戦いが待っています。無理なくコンディションを整えていけば、3連覇は濃厚といっていいのではないでしょうか。

 鹿島が夏場に停滞した一方、完全に落ち込んでしまったクラブは7連敗を喫した浦和レッズですね。フォルカー・フィンケ監督の標榜する走るサッカーは夏場に向かないというお話も先月させていただきましたが、まさかここまで苦しい戦いになるとは思いませんでした。もともとは力のあるクラブですから、なにかキッカケが欲しいところ。このままズルズルいかないためにも、監督の大胆な采配に期待しましょう。

<好調・清水を支える信頼感>

 一方で、サンフレッチェ広島や清水エスパルスがここへきて順位を上げてきています。特に清水はここ10試合で負けがありません。シーズン全体でみても24節を終了して負けが4つ。これは鹿島と並んで最も少ない数字です。ただ、引き分けの数が10と、これもリーグ最多。負けない着実さがある反面、勝ちきれないもどかしさも共存しています。先週末の川崎フロンターレとの1戦も、まさにそんな試合でした。後半32分に先制点を奪ったものの、ロスタイムで同点に追いつかれてしまう。敵地での試合ですから、負けないことが第一とはいえ、勝ち点2を取りこぼすのは、上位を狙うクラブとしては痛い。現在は4位につけていますが、優勝争いに絡んでいくためには、しっかりと勝ちきることが今後の課題になってくるでしょう。

 好調清水を支えているのは、日本代表でもレギュラーを掴みつつあるFW岡崎慎司であることは疑いがありません。代表で結果を出してきたことで、クラブに与える影響も大きくなっています。彼は昨年の開幕当初、清水でもレギュラーを保証されている選手とは言えませんでした。それが、確実にチャンスを掴み代表に入り高い意識でサッカーをすることによって、急激な成長曲線を描きました。チーム内での信頼関係も確立され、岡崎を使って得点をとる形が明確になっています。

 岡崎のポテンシャルが発揮できる環境を整えたという点では、クラブを率いる長谷川健太監督がうまく全体をコントロールしているとも言えるでしょう。健太はこれまで自身の中で失敗と成功を繰り返し、手応えをつかみながら成長してきているように思えます。エスパルスというクラブも監督を育成するビジョンをしっかりと持ち、健太をサポートし、時間を与えている。この姿勢は素晴らしいし、そこまでクラブ大切にされている健太が羨ましいですね。このままの勢いでいけば、ナビスコ杯や天皇杯では久しぶりのタイトルを獲得できるのではないでしょうか。特にナビスコ杯は昨年の決勝で悔しい想いをしていますから、選手たちも今年にかける意気込みは大きいはずです。清水がここから気をつけなければいけないのは、ケガ人を出さないこと。今後はタイトルのかかった大一番に臨むことになりますから、選手一人ひとりが落ち着いてこれまで通りの戦いができるかどうかが重要です。サッカー王国の復活を信じるサポーターのためにも、大きな成功を手にしてもらいたいですね。

<9月の2試合は上位進出への試金石>

 さて、代表チームにとって大きな意味を持つ遠征がまもなく始まります。9月初旬にオランダへ遠征し、5日にオランダ代表と9日にはガーナ代表との親善試合が組まれています。特にオランダ戦は、これまで世界の強豪と戦う機会のなかった現代表が初めて強い相手と戦うチャンスです。岡田武史監督が目指しているサッカーが、手ごわい相手にしっかりと通用するのかを確認しなければいけません。現時点でベストの布陣をつくり、方向性を確認しつつ勝ちを目指してほしいと思います。

 最大の関心は本田圭佑(VVVフェンロ)の起用法でしょう。私は先発で出場する本田を見たいですね。これまで中村俊輔(セルティック)と同時にピッチに立つ時間はほとんどありませんでしたが、この二人の共存は可能だと考えます。二人は左足を得意とするスタイルでポジションも重なることが多いですが、明らかにタイプが違います。「静」の俊輔に対し「動」の圭佑とでも言いましょうか。本田の力強さはこれまでの日本にはなかったもの。俊輔の柔らかさとあわせ、相手にとって非常にやっかいなものになります。本田をトップ下に配し、俊輔がサイドで構えれば、バランスは保たれるはずです。南アフリカでの本番に向け、攻撃のバリエーションは少しでも多く持っていたほうがいい。貴重なシミュレーションの舞台で、新たな方法を模索してほしいですね。

 南アフリカW杯開幕までおよそ9カ月です。日本代表の戦いぶりを見た上で、彼らのやりたいサッカーが実現できているのか、いないのか。これをしっかりと議論していかなければいけません。それはマスコミだけでなく、サポーターのみなさんにも検証してほしいです。W杯に向けて日本全体が盛り上がるためには、みなさんの生の声が非常に重要になってきます。マスコミやサポーター、そして岡田監督がそれぞれの立場で代表について考えを持ち議論していくこと、世界と戦うために日本の進むべき方向性を見出すことが、本番での上位進出のカギになります。そのヒントを見つけるには、今回のオランダ遠征は絶好の機会です。欧州での試合になりますが、日本人サポーターにも観戦しやすい時間にマッチメイクされています。日本が世界を相手にどこまで通用するのか。9月の2試合に注目してください。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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