9月上旬に行なわれたオランダでの日本代表の2試合は、現状の力を把握するには非常にいい機会になりました。初戦のオランダ戦では0−3の完敗、2戦目のガーナ戦は4−3の逆転勝ち。スコアだけをみると、1勝1敗の五分ですからまずまずの結果と言えるのかもしれません。しかしその結果以上に、2試合から見えた課題や手応えが、岡田ジャパンの方向性を示してくれたように感じます。

 まず、初戦のオランダ戦から振り返ってみましょう。立ち上がりから試合の主導権を握ったのは日本でした。前線からのプレスが有効で、世界ランク3位の格上相手に、しかもアウェーでいいサッカーを展開しました。この遠征では「強国を敵に回してどこまでやれるかを把握する」という目標がありました。前半を0−0で折り返したことで、選手もある程度手応えを感じたでしょう。

 しかし、後半20分過ぎに先制点を許してから、立て続けに失点を喫し、終わってみれば0−3の完敗。あっという間に勝負をつけられた感覚があります。日本は0−1になった時点で、チームを立て直すことができませんでした。60分間を無失点で切り抜けてきたことで、高いモチベーションを維持していましたが、ゴールを割られたことにより意気消沈してしまった。チーム内に焦りが一気に広がったのでしょう。オランダにそこを見事に突かれました。さすがは世界ランク3位の強国です。試合の流れを読むことに長けていますね。先制してからのオランダはとにかく前へ出る動きが素晴らしかった。日本が主導権を握っていた時間帯は、まるで眠っていたのかと思わせるほど、ペースを一気に上げましたね。一度相手に傾いた流れを日本が再び取り戻すことはできませんでした。

 この3失点はメンタル面に起因するものも多いはずです。格上の相手と戦う上で、失点をしないことは非常に大事なことですが、だからといって1度でもゴールを割られたら、そこでおしまいということでもありません。前回のドイツW杯オーストラリア戦でも言えることですが、日本は失点を喫した後に、立て続けにやられる場面が多い。ここは克服しなければいけない、大きな課題といえるでしょう。もちろん、個々の失点の場面は、それぞれの原因がありますが、大きな流れとして注意をしなければいけない点です。

 反対に、先制されながら終盤で逆転したガーナ戦は気持ちを切らさなかったという点で評価できます。もちろん相手がベストメンバーではないこと、W杯予選直後でコンディションがよくなかったことはありますが、2点を先に奪われながら1点を返し、後半25分過ぎから連続して3得点を奪い返したことは素直に評価していい。こんな場面はしばらく代表では見ていなかったわけですから。

 日本が目指す攻撃の形もガーナ戦では明確になっていました。得点シーンでも多かったのは、遠目からのシュートです。ミドルレンジからゴールを狙おうという意図がチーム全体に浸透しています。ミドルである程度リズムを作った上で、今度はDFラインの裏を狙う。オランダ遠征では、左サイドの長友佑都(F東京)がいい働きをしていました。攻撃の起点を出し入れすることで、相手守備陣を混乱させることができました。岡田武史監督の目指す攻撃がやっと具現化されてきたのではないでしょうか。

<中澤の奮起に期待>

 守備面では、ガーナ戦で日本サポーターにとってショッキングなシーンがありました。それはガーナの2点目が入った後半立ち上がり2分です。GKからのタテ一本のパスに抜け出したFWアサモア・ギャン(レンヌ)に中澤佑二(横浜FM)がピッタリとマークしながら対応しました。しかし、その中澤がいとも簡単にギャンに振り切られ、ギャンの放ったシュートはゴールに吸い込まれました。中澤といえば国内では屈指の強さを誇るDFです。代表でも長年ラインを統率しながら体を張って日本ゴールを守ってきました。その彼が国際試合で簡単に相手に振り切られ、得点を許してしまったわけです。ガーナはアフリカ勢の中ではそこまで身体能力に長けているチームではありません。カメルーンやナイジェリアといった、さらにフィジカルの強い相手が来たらどうなってしまうのか。心配するサポーターの方も多いでしょう。

 しかし見方を変えれば、これが親善試合でよかったわけです。もちろん中澤選手の頭の中にもあのような失点の可能性があり、警戒もしていたでしょう。しかしそれでも、結果として突破を許してしまった。この失点は、W杯本番に向けたいい薬といっては乱暴かもしれませんが、今後、中澤選手がさらに高い次元のプレーができればいいことです。代表を一度引退しながら、現在もキャプテンマークを巻く彼の気持ちは相当強いものがあります。一度失敗をした中澤の、今後の1対1の対応にも注目してもらいたいですね。

 オランダ遠征全体の印象として、パスミスや中途半端なクリアの多さ、さらに気持ちの切れた場面などあり多くの課題を見受けられました。一方で、いかなる形であれ、ガーナ戦で逆転勝利したことで、少なからず自信も手に入れたことでしょう。10月にも代表戦は3試合組まれていますが、これまでのやり方を無理に変える必要はありません。とにかくミスをなくし、プレーの精度を上げること。これは個人個人の問題にもなりますが、少しずつレベルアップしていくしかありません。オランダ遠征での経験を生かすも殺すも今後にかかっています。そうした意味でも、10月のホーム3連戦から目が離せません。

<鹿島、急ブレーキの原因と上昇著しい名古屋>

 さて、話は国内に戻ってJリーグに目を移してみましょう。今月はなんといっても鹿島アントラーズの急ブレーキに驚かされました。今月のリーグ戦では勝ち星なしと、とても首位を走るクラブの数字とは思えません。勝ち点3を挙げられなかった一番の要因はDF陣の平凡なミスです。一度乱れた統率を試合の中で修正することができず、相手のなすがままになってしまっています。しかし、これはGKやDFを責めているだけでは解決しない問題です。

 まず前線のマルキーニョスにボールが収まらなくなっています。これは相手チームのマルキーニョス対策が功を奏しているから、といえるでしょう。昨年よりも厳しいマークで、かなり削られていますからね。そして中盤の運動量が足りないこと。特に青木剛と小笠原満男、ダブルボランチの守備に入る意識がはっきりとしていません。例えば、右サイドから内田篤人が駆け上がった時に、右サイドをケアすべきなのか、それとも中をしっかりと固めるのか。この役割はボランチが担わなければいけないのですが、二人ともそこまでカバーできていません。そして、この部分の綻びを相手は常に狙っています。中盤がタイトなプレーをできていないことで、相手に前を向いてのプレーを許している。ここを修正してコンパクトなサッカーをしなければ、鹿島が首位から転落するのは時間の問題かもしれません。

 鹿島と対照的に、ここへきて昇り調子のクラブは名古屋ですね。前節は鹿島のホームで4−1と首位を撃破。そして、23日、31日に行なわれたAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝では川崎フロンターレとのJクラブ対決を制してベスト4進出を決めました。鹿島戦やACLで活躍を見せたのは、中盤の三都主アレサンドロと小川佳純の二人です。三都主はボランチに入り、献身的なプレーでチームを牽引しています。守備に回ったと思えば、サイドで攻撃の起点になる。常時、スタメンを張っているわけではありませんが、彼のポジションバランスのよさがここ一番で発揮されているように思います。

 そして小川です。ACL準々決勝第2戦では素晴らしいミドルシュートを決めましたが、彼の思い切りのいいシュートと、DFの裏に出すスルーパスが名古屋の攻撃にいい変化を作っています。攻撃はただパスを回して前線に預けるだけでは、相手守備陣は怖さを感じません。代表チームと同じような指摘ですが、緩急をつけてボールを出し入れされると、DFラインは混乱します。

 また、名古屋には前線にケネディというターゲットマンがいます。ボールを中盤で動かすことができる上、ゴール前でキープできる場所もある。そこへ代表FWの玉田圭司が絡んでいくわけですから、攻撃に厚みが出るのは言うまでもありません。シーズン後半になってやっと形ができてきた名古屋。残り試合数と首位との勝ち点差を考えると、リーグ制覇は少し難しいように思えます。となれば、目標はACL一本でしょう。11月7日(土)に行なわれる決勝の舞台・国立競技場で、彼らの姿を見てみたいですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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