W杯アジア最終予選を終え、Jリーグが再開してから約1カ月が経ちました。現在、リーグトップを快走しているのは鹿島アントラーズ。2位との勝ち点差を10にまで広げ、早くも独走態勢に入っています。鹿島の強さはどこにあるのでしょうか。

 昨年の覇者がここまで磐石の戦いをみせています。09シーズン第19節を終えて13勝5分け1敗。たった一度の敗戦は3月15日の第2節、新潟とのアウェー戦(1−2)ですから、ここ4カ月はJリーグで負け知らず。無敗記録中には8連勝も記録しました。

 鹿島の強さの要因は選手層が厚く、選手が入れ替わっても大きな戦力ダウンにならない点でしょう。昨年優勝を手にしたメンバーとほぼ変わっておらず、クラブ世界一を経験したことのある名将・オズワルド・オリヴェイラ監督も今年で3シーズン目。昨年以上にチームが成熟し、コンセプトが明確になっています。各選手がチーム内での約束事をしっかりと守っていますね。特にボールを持っている選手に対するサポートに入る素早さや動き出しのタイミングが統一されている。チームの完成度は相当高いレベルにあります。よほどのことがない限り、このまま首位を守りつづけるでしょう。

 ただし、今の時期は鹿島にとって苦手な季節のようです。彼らはどうも夏場に弱い。今年のスケジュールは7月に7試合、8月に5試合を消化する過密日程です。毎年、夏場に息切れするパターンにはまりますね。優勝した昨年もこの例に漏れません。優勝の行方に大きく響かなかったとはいえ、7、8月に行なわれた試合で3つの黒星をつけられています。シーズン全体の負けの半分近くをこの時期に喫しているのです。

 今シーズンも19節の柏戦で降格圏内の相手に引き分け、29日に行なわれたナビスコ杯準々決勝でも川崎フロンターレに延長の末、敗れました。ロスタイムが長かったとの指摘もありますが、そこで踏ん張りきれなかったのは事実です。5、6月の貯金を使い切らないように、もう一度、気合を入れていかなければいけません。

<上昇ムードの川崎、今後が厳しい浦和>

 首位に夏バテムードが漂っているとはいえ、2位から5位までは勝ち点2の中にひしめいている大混戦です。この中で注目したいのは川崎です。先述のナビスコ杯で鹿島に国内公式戦で19試合ぶりに黒星をつけた戦いぶりは見事でした。後半ロスタイムに同点に追いつき、延長戦でも2ゴールを挙げての快勝。鄭大正も負傷から戻ってきましたし、これからさらに調子を上げてくるでしょう。過密日程の苦しい時期、選手にとって一番の回復薬はなんといっても“勝利”ですからね。

 その川崎とは対照的に心配なのは浦和レッズ。田中マルクス闘莉王を始め、DFラインに負傷者を抱えているのが気がかりです。厳しい日程を戦い抜くために最も大切なことは「ケガ人を出さないこと」。この点で上位にいるクラブではレッズが辛い立場にあります。加えて最近の負け方もよくない。フォルカー・フィンケ監督の提唱してきた運動量豊富なサッカーは、夏場の戦い方として適しているとはいえません。

 各クラブを悩ませている夏の暑さ。この時期の試合は当然のことながら、スタミナの消耗が激しくなります。そこに重なって、中2日で試合というような厳しいスケジュールが組まれています。このような条件の中、確実に勝ち点を積み重ねるクラブは技術の成熟度が高く、完成されたチームです。やはり運動量を求めるのは酷ですから、クラブ全体が正確にボールを動かせるかどうかがポイントになります。ボールはいくら動かしても疲れることはありませんからね。自分たちの作戦や戦術眼に優れたところが夏場に抜け出してくるでしょう。逆に言えば、この時期は上位クラブと下位クラブの間に差がつきやすい時期です。ボールを回す際、つまらない連係ミスが目立つようなクラブはなかなか浮上できません。細かいパス回しの正確さがそのまま試合の結果に表れます。みなさんもそこに注目してみてください。

<新たな選手起用が楽しみな9月の親善試合>

 来年の南アフリカW杯に向け、年内の強化試合の日程が発表されました。9月のオランダ、トーゴ戦は以前から組まれていましたが、さらに11月に開催国・南アフリカとのアウェー戦が開催されることになりました。これは代表にとって大きな経験になるでしょう。季節は違うとはいえ、現地でW杯本番で使用するピッチで試合ができるということは、シミュレーションとして大きなアドバンテージになります。ただ、10月のスコットランド、トーゴ戦は付け焼刃なマッチメイクな感が否めません。やはり、強豪国との試合を組んで欲しかったですね。自分たちのスタイルが、世界を代表する強豪国相手にどれだけ通用するのか、それを検証する場がまだまだ足りていません。来年のマッチメイクに対し、協会のバックアップに期待したいところです。

 なかなか思うような試合を組めていない中、9月のオランダ戦は総合力の強い相手に様々な試みができそうです。ガーナも身体能力の高い相手ですから、スピード・高さを試すには良い相手。そこで蓄積したものを南アフリカW杯でどう生かしていくかが、これからの岡田JAPANにとって大きな課題になります。

 一方、自分たちのスタイルを確立しながら、新しい血をどんどん投入してほしい。Jリーグで好調をキープしアピールし続けている選手もいます。これまでのスタイルにアクセントを加える意味でも、岡田監督にはいきのいい選手を招集してほしいですね。

 それと、忘れてならないのは岩政大樹の存在です。闘莉王が負傷がちな上、中澤佑二も先日の試合で顔面を骨折してしまいました。代表不動の2センターバックに匹敵する強さとリーダーシップを兼ね備えているのは、彼しかいないでしょう。代表の主軸となるレギュラークラスのケガは喜べないものの、今は新たな選手が出てくるチャンスです。好調クラブのストッパーを是非、岡田JAPANのカードに加えてほしいものです。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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