上背のあるピッチャーが投じるボールを「2階からくる」と表現することがある。
 まさに、そんなボールを投げているのがカープのセットアッパー、マイク・シュルツだ。

 身長201センチ、体重100キロ。現在、NPB(日本プロ野球組織)では、中日のマキシモ・ネルソン(204センチ)に次ぐ長身ピッチャーである。
 8月28日現在、57試合に登板し、2勝3敗、1セーブ、28ホールド、防御率2.53。ちなみにホールドとは主にセーブと同じ条件で、最終回以外の場面で登板した場合に記録されるポイントである。
 201センチの上背から投げ下ろされるため、ストレートには角度がある。球速もゆうに150キロを超える。交流戦で対戦した東北楽天の好打者・草野大輔は「速い上にボールに角度がある。目線を動かさなくてはいけないので容易には打てない」と舌を巻いていた。

 余談だが、NPB史上、最長身の日本人ピッチャーは巨人と大洋に在籍した馬場正平(故人)である。いうまでもなくプロレスの世界で“東洋の巨人”と恐れられたジャイアント馬場だ。
 馬場の身長は209センチ。足のサイズは16文(約38.4センチ)。猫の子供がスパイクシューズを住み処にしていたという逸話もある。
 馬場といえば「プロ野球では失敗した人」というイメージがあるが2軍では最優秀投手賞にも輝いている。1軍での記録は1957年の7イニングだけだが、防御率は1.29だから悪くはない。
 生前、本人に「なぜ1軍ではあまり使ってもらえなかったんですか?」と訊ねたことがある。
 馬場は「当時、巨人に新潟出身の先輩はいなかった。誰もオレを(上に)推薦してくれなかったんだよ」と語っていた。コントロールもよく、大崩れすることはなかったという。

 話をシュルツに戻そう。大柄なピッチャーはコントロールに難があるように映るが、シュルツは制球力も安定している。
 今季は57イニングで与四球は17だから、9回に換算すると2.7個しか四球を与えないことになる。
 安定感ではクローザーの永川勝浩をはるかに上回る。「シュルツをクローザーに回した方が勝ちゲームは増えるはず」との声もある。
 ただクローザーに昇格させるとなると、現在の年俸(4400万円+出来高)を大幅にアップさせる必要がある。
 カープとは今季限りで契約が切れる。シュルツ本人は広島の地を気に入っているようだが、カープを上回るオファーがあれば、それを拒否することはないだろう。

 ネット裏ではマーク・クルーンの代役として巨人が狙っているとか、抑えの切り札不在の東北楽天や横浜が欲しがっているとかいうウワサを耳にする。
 年齢も28歳と若い。リリーフピッチャーとしては、いよいよ脂が乗り切ってくる頃だ。このオフはシュルツ争奪戦が繰り広げられることになるかもしれない。

<この原稿は2009年9月13日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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