第116回 「リング」から「ケージ」へ 〜10・25大阪城ホール「DREAM12」への期待〜

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「Stop! Don’t move. Center!」
 リング上でレフェリーが、そう声を発する時、私はいまも違和感を覚える。もう10年以上も耳にしているフレーズなのだが、そのやり方が、どうもしっくりとこない。
 グラウンドでの攻防がもつれ、闘っている選手が、ロープ、あるいはコーナーに接する。時に、ロープを越えてリング下に落ちそうにもなる。そこでレフェリーが一度、試合を止め、両者をリング中央に戻し、同じ体勢から試合を再開させる。かつての『PRIDE』『HERO’S』、そして現在の『DREAM』のリングでも見慣れた光景だ。
 だが、このやり方には「無理がある」と私は思う。
 なぜならば、一度崩したものを、元の形に戻すことは不可能だからだ。ガードポジションだったから、またガードポジションから、サイドポジションだったから、サイドポジションから……そんなアバウトなやり方が良いのだろうか。同じポジションではあっても、それは厳密には同じ形ではない。選手のカラダ使いと呼吸、そして試合の継続性、グラップリングの繊細さ……それらを無視していると感じられてならないのだ。

「でも仕方ないじゃないですか。ロープやコーナーが邪魔になって、選手が互いに本来の動きができない。それにリング下に落ちたら怪我をしますよ。だからリング中央に戻すんです」
 ある団体関係者は、私にそう言った。

 仕方がない……そうだろうか。
 何故、両者を中央に戻さなければならない事態が生じるのかを考えようとはしないのだろうか。『UFC』は、その辺りがスッキリとしている。1993年の第1回大会から今日まで『UFC』は、映画監督ジョン・ミリアスが考案したオクタゴン(八角形ケージ)を試合場に用いている。金網に囲まれた試合場ならば、選手が場外に出ることはない。金網に押し込むのもひとつの戦術であり、そのまま試合は続けられる。一旦、試合をストップし、選手をリング中央に戻す必要もないのだ。

 また、リング上での闘いでは、ロープを掴むことは反則とされている。でも、打撃系の選手がタックルを見舞われ、追い込まれ、倒されそうになったならば、それを拒もうとロープを掴むのは、ごく自然な行為のようにも思える。すぐそばにロープがあるのに、それを掴めず、そのままテイクダウンを喰らうというのもどうなのだろう。
 ロープを掴んではいけない、と規定するなら、選手が掴まなくてもよい試合場設定をすることも必要ではないか。闘いの舞台をリングからケージに変えれば、この問題も解消される。金網はロープとは異なり掴みづらい。タックルを喰らい、テイクダウンを逃れようと金網を無理に掴めば、指を痛めてしまうことになるだろう。
 リングよりもケージのほうが総合格闘技の試合場に適していると私は考えている。

 観客が観やすいのは、ケージよりもリング…との声が圧倒的なのだが、これも果たして、そうだろうか。私は『UFC』を米国で何度も観ているが、それほど、見づらいと感じたことはない。むしろ、リングよりケージのほうが臨場感があって良いと思う。

 さて、10月25日、大阪城ホールで開催される『DREAM12』で六角ケージが導入されることになった。これは英断だと思う。主催者は「これはあくまでも実験的な試み。年に一度、ケージでの大会を開いていければ……」と話している。だが、『DREAM12』でケージの長所が明確になれば、今後、試合場がリングから変更される可能性も充分にある。

 試合時間も『DREAM12』では、これまでの1ラウンド10分、2ラウンド5分の方式ではなく、5分3ラウンド制となる。これにも賛成だ。『UFC』も『戦極』も5分3ラウンド制を採用している。レギュレーションが統一されていたほうが、観る者に解りやすいし、選手の実力も測定しやすい。『DREAM13』以降も、5分3ラウンド制の試合時間設定を望む。

 リングからケージへ。
 総合格闘技が競技として確立されていくのならば、それは当然の流れのように思う。

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近藤隆夫(こんどう・たかお)
1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等のスポーツ番組でもコメンテーターとして活躍中。著書には『グレイシー一族の真実〜すべては敬愛するエリオのために〜(文春文庫PLUS)』ほか。
連絡先=SLAM JAM(03-3912-8857)
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