第157回 ヤンキース&松井秀喜、約束の地へ

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 9月下旬のレッドソックス3連戦にスイープ勝利を飾り、この時点でヤンキースの3年振りの地区優勝が決定。MLBベストチームとの名声を欲しいままにし、これから万全の体制で約束の地・プレーオフに挑むことになる。
 そして、そのチーム内で5番打者の地位を確保してきた松井秀喜の評価も、シーズンが進むに連れて徐々に上がり続けている。オールスター以降の60試合では打率.297、14本塁打、50打点。特に9月は打率.356、5本塁打と絶好調(記録はすべて9月29日現在)で、優勝を決めた9月27日の試合での逆転タイムリーも印象的だった。
(写真:松井のピンストライプ姿が見納めになるかどうかはプレーオフ次第か)
「序盤は煮え切らない調子だったのに、完全に転換させたね。今じゃファンや監督にとっても松井以上にチャンスに打席に立って欲しいと思う打者はいないんじゃないか?打撃に関しては衰えを知らない選手だ」
 記者席で筆者の隣に座ることの多い「タイムズ・ヘラルド=レコード」紙のケビン・グリーソン氏は、最近の松井を見てそう語った。そしてこのように松井を賞讃しているのはグリーソン氏だけではない。

 夏場を迎えたあたりからその勝負強さ、確実性を再評価する声は増える一方。7人が20本塁打以上と歴史的な破壊力を見せつけているヤンキース打線の中でも、今やなくてはならない存在となった感がある。
「来季以降にヤンキースが松井との契約を更新することはあり得ない」
 地元では春から通じて、そう考えられていたことは、すでに7月のコラムでも紹介した通り。しかし、これほどの打棒を見せつければ、世論の風向きが変わるのは必然。ファンの間からも「残留させるべき」という意見は聴こえてきているし、その声はヤンキースフロントにも届いていることだろう。

 それでもすべての情報を総合すると、現時点でヤンキースは未だに「松井放出」の方向に傾いているようである。スクープの多さに定評のある「スポーツイラストレイテッド」誌のジョン・ヘイマン記者も、9月26日に同誌ウェブサイト内でこう記述している。
「松井秀喜に親しい人物は彼の希望はヤンキース残留だと証言している。しかしヤンキース側は、DHの席をホルヘ・ポサダや他のベテランたちに空けるために、嫌々ながらも松井を引き止めない方向のようだ」
(写真:キャッシュマンGM(左)はもちろん来季の人事にはまだ言及していない)

 チーム内に情報源を持っている人物の言葉だとすれば、ある程度の信用がおける。残留が理想だとするなら、とりあえず良いニュースではないが、しかし以前の「まずあり得ない」という状況を思えば大きな変化。チームフロントも軟化を始めていることはやはり事実のようである。
 そして、松井の近況が良い方向に向かいかけたちょうど良いタイミングで、ヤンキースはこれからポストシーズンの戦いに臨むことになる。

 このままいけば、ヤンキースがワールドシリーズ進出の大本命に挙げられることは必至。だが「過去10年間でシーズンのベストレコードチームが世界一に輝いたのは1度だけ」という驚くべきデータが示す通り、MLBのプレーオフは第1シードチームにとっても決して易しいものではない。

「優れた先発投手、上質なブルペン、勝負強い打撃……と細かく探していったらキリがないが、簡単に言えばシリーズごとに良いプレーをしたチームが勝つ。より良いチームが勝つのではなく、ベストのプレーをしたチームが勝つ。それがプレーオフさ」
 ヤンキースのジョー・ジラルディ監督はそうコメント。実際にレギュラーシーズンの勝ち星などすべて消し飛び、よりギャンブル性の強い戦いが続く。

 近年稀にみるケミストリーが宿っているように思えるヤンキースだが、その魔法がポストシーズンまで続くのかどうかはわからない。1つだけ確かなのは、たとえシーズン中に何勝挙げようと、世界一に辿り着けなければ今季が「失敗」として記憶されていくことだけである。
(写真:新球場が緊張感と熱気に包まれる季節はもうすぐだ)

 そんな必勝の季節の中で、ヤンキース残留に向けて背水の戦いに挑む松井は、これまでの勢いを保ち続けるのかどうか。もしも5番打者が勝負強さを発揮して世界一に大きく貢献したとしたら、ヤンキースが手放さない可能性は大きく高まることだろう。危機を救う救世主的な活躍などできた場合には、世論も一気に残留に傾くに違いない。しかし逆に、再びプレーオフで呆気なく無惨な敗北を味わってしまった場合には……。

 スリリングでドラマチックなMLBポストシーズンが間もなく始まる。
 松井にとって、ニューヨーク残留を賭けた戦いは最後まで続いていく。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト スポーツ見聞録 in NY
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