長崎とのリーグチャンピオンシップは3連勝。おかげさまで年間王者に輝くことができました。本当にありがとうございます。戦前からいい勝負はできると思っていましたが、第1戦、第2戦とホームゲームに勝ったことで、一気に決める形が生まれました。第3戦は1日、雨で順延したものの、チームの雰囲気は変わらなかったですね。
 チャンピオンシップの勝敗を分けたのは、なんといっても初戦でしょう。高知の先発は今季の最多勝、吉川岳。長崎は主砲の末次峰明、根鈴雄次ら左打者が多く、サウスポーの吉川で何とか2勝したいと考えていました。大事な試合とあって、立ち上がりは緊張していましたが、打線が先制点をプレゼントしてくれたこともあり、尻上がりに調子をあげていきました。

 以前もご紹介したように吉川の課題は精神面にありました。マウンドに上がると慎重になりすぎ、ストライクが入りません。そして苦し紛れに置きに行ったボールを痛打される。この悪循環を繰り返していたのです。

 しかし、試合で勝利を重ねるごとに、自分のボールに自信が生まれ、マウンド上で余裕が出てきました。それが緩急やコースと出し入れする投球につながり、悪循環が好循環へと変わっていったのです。今ではすっかりベンチで安心して見ていられるようになりました。

 サウスポーでこれだけの投球ができれば、次のステップにも期待がかかります。身長172センチと体は大きくないものの、東京ヤクルトの石川雅規、北海道日本ハムの武田久、ソフトバンクの杉内俊哉など吉川と同じくらいの背丈でNPBで活躍している左腕はたくさんいます。球速もアップし、140キロは出るようになってきました。NPBのスカウトも結構、来ていますし、ぜひ月末のドラフト会議で朗報が届くことを楽しみにしています。

 初戦を制して第2戦の先発に起用したのが、元阪神の伊代野貴照です。彼にはシーズン中、クローザーを任せていました。本来なら11勝をあげている野原慎二郎を先発にするところですが、ひじを痛めて戦列離脱。経験も力もある伊代野を頭にまわすことに決めました。終盤の継投を考えると不安だったとはいえ、短期決戦ではいい投手をつぎ込むことが鉄則です。幸いシーズン終盤にチャンピオンシップでのロングリリーフを想定し、彼を先発で使った試合がありました。結果は2失点完投勝利。肩のスタミナは問題ない。あらかじめテストをしていた点も、結果的にはプラスになりました。

 高知に来た当初、伊代野にはコントロールにやや難がありました。NPBに復帰したいとの思いが強すぎたのか、必要以上に力んで投げていたのです。「7、8分で投げても抑えられる。もっとラクに投げろ」。そんなアドバイスを送ったことを覚えています。確かに投手は「力むな」と言っても力んでしまうものです。しかし、いい投手は力が入っても、いいボールを放れます。ここがプロで活躍する投手と、そうでない投手の境目ではないでしょうか。

 伊代野にとって高知での今シーズンは、自分に足りないものを見つめ直す期間になったはずです。もともと変則的なサイドハンドでNPBにもあまりいないタイプ。抑えも先発も経験し、スカウトにもいい再アピールができたと思います。フェニックス・リーグのリーグ選抜メンバーにも選ばれましたから、ここで結果を残してNPB復帰を勝ち取ってほしいものです。

 このチャンピオンシップでは吉川、伊代野の先発投手に加え、打線も効果的に得点をとってくれました。目立ちはしないものの固い守りも見逃せません。確実に併殺を取ったり、ホームで刺して失点を阻止するケースも何度とありました。6球団見渡しても内外野の守備力は最終的にリーグで一番だったと言えるでしょう。やはり野球では守りのミスが出たほうが負けます。年間王者に輝いた大きな理由は、この守備力にあったと感じています。

 次なる戦いは24日からスタートするBCリーグチャンピオンとのグランドチャンピオンシップです。まだ開幕まで2週間以上も時間があります。それだけに心配なのは実戦勘が鈍ることです。NPBでもプレーオフの1位チームが、第1ステージを勝ちあがってきた下位チームにコロッと負けてしまうケースがよくあります。練習試合を組もうにも、今の時期は対戦相手や球場を確保するのも一苦労。練習だけでは、どうしても選手のモチベーションが下がるため、約20日間の過ごし方は悩ましいところです。
 
 それでも過去2年、グランドチャンピオンシップは香川が制し、アイランドリーグが独立リーグの先輩としての実力を見せています。高知が負けては格好がつきません。どこが相手になるかは未定ですが、チャンピオンシップ同様、いい勝負をしたいと思っています。高知のホームゲームは第3戦からの予定です。ファンのみなさん、最後まで応援よろしくお願いします。


定岡智秋 (さだおか・ちあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1953年6月17日、鹿児島県出身。定岡三兄弟(次男・正二=元巨人、三男・徹久=元広島)の長男として、鹿児島実業から72年、ドラフト3位で南海(現ソフトバンク)に入団。強肩の遊撃手として河埜敬幸(元長崎監督)と二遊間コンビを形成した。オールスターにも3回出場し、87年限りで現役を引退。その後、ホークス一筋でスカウトや守備走塁コーチ、二軍監督などを歴任。小久保裕紀、松中信彦、川崎宗則などを指導し、現在の強いソフトバンクの礎づくりに貢献した。息子の卓摩は千葉ロッテの内野手。08年より高知の監督に就任。現役時代の通算成績は1216試合、打率.232、88本塁打、370打点。





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