国内か米国か――。この号が出ている頃には、もう結論が出ているかもしれないが、花巻東高(岩手)の155キロ左腕・菊池雄星の進路が注目された1週間だった。

 国内12球団とメジャーリーグ8球団、計20球団と面談を行った際には、こう述べていた。
「どちらも行きたい、というのが正直なところ。話を聞く前より迷っているところもある。両親も監督も自分の判断に任せると話している。ドラフト直前になって周囲に迷惑をかけないよう、早めに決めたい。日米どちらの方が自分が伸びるのか、どちらの方が安心してプレーできるのかを一番に考えたい」

 熱心さということでは、国内球団よりもメジャーリーグ球団の方が上だったかもしれない。
 たとえばテキサス・レンジャーズ。通算5714奪三振のメジャーリーグ記録を持つノーラン・ライアンが社長を務めるこの球団は、何と面談に現役メジャーリーガーのデレク・ホランドを同席させたのだ。
 ホランドといってもピーンとこない読者の方がほとんどだろうが、「9月13日、イチローがメジャーリーグ記録の9年連続200安打となるショートへの内野安打を打った時のピッチャー」と言えば、「あぁ、あの人ね」と思い出す方もいるのではないか。
 今季からメジャー昇格した23歳のサウスポーである。戦績は33試合に登板して8勝13敗、防御率6.12。現役メジャーリーガーを連れてくることで、球団の本気度を訴えたかったのだろう。2人の間で、どんなやり取りがあったのか知らないが、菊池がレンジャーズに好感を抱いたことは間違いあるまい。

 菊池の素質について語る時、ボールのスピードや股関節のやわらかさなどが挙げられるが、そればかりではない。
 東京ヤクルトの八重樫幸雄スカウトはこう語る。
「菊池は20年にひとりの逸材。それは練習中の姿からもうかがえる。彼は投内連係でも一切、ボールから目を離さない。あの集中力は素晴らしい」
 国内、国外どこのマウンドに立っても成功する逸材だと個人的にも思う。

 18歳の左腕を悩ませるのは昨年、NPBが設けた保護政策色の強いルールだ。
 それによれば、NPBのドラフト指名を拒否した選手が外国のプロチームでプレーして戻ってきた場合、高卒は3年間、大卒・社会人は2年間、NPB所属球団との間で契約できないことになっているのだ。
 私に言わせれば、NPBは自分で自分の首を絞めているようなものだ。こんな不必要なペナルティを設ければ、将来性のある選手は早い段階から、どんどん海を渡るのではないだろうか。
 海外への人材流出を防ぐ妙薬はない。つまるところNPBと所属球団がメジャーリーグよりも魅力ある野球環境をつくれるかどうかにかかっている。

<この原稿は2009年11月8日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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