はじめまして。来季より神戸9クルーズの監督を務めます池内です。僕は昨年まで中日で動作解析の担当を務め、今年からは元南海の門田博光さんが最高顧問を務めるホークスドリーム社で営業部長をしています。野球だけが取り柄の自分にとって、会社で取り組んでいるのがクラブチームの立ち上げです。
 野球をまじめに取り組む若者たちに、その場を提供したい。この思いからプランをスタートして約半年、各方面に協力をお願いし、徐々に選手が集まりつつあります。神戸球団からお話があったのはそんな矢先のことです。最初は退団選手をクラブチームで受け入れるといった業務提携のご提案をいただきました。

「1度、試合を見に来ていただけませんか?」
 球団の方のお誘いで公式戦にも足を運びました。関西独立リーグの試合を見るのは、もちろん初めて。でも、実際にプレーを見ると「楽しみな選手は少なくないな」との印象を抱きました。長年、NPBのファームで指導者やスタッフとして仕事をしていただけに、そこと比較しても大きな実力差はありません。何度か試合を観戦するうちに、今度は球団からは監督の就任要請もいただいていました。地域密着の球団運営と選手育成の理念は僕の考えとも通じるものがあります。何より、野球人はユニホームを着て現場にいるのが一番。こうしたいきさつで今回、監督を引き受けることになりました。

 チーム作りは、まだ来季の契約状況がはっきりしないため、これからがスタートです。残留するメンバーを踏まえて、足りないところはトライアウトで補強していかなくてはいけません。いずれにしても個性を伸ばし、NPBで花を咲かせるような選手を育てたいと考えています。

 専門分野である投手でいえば、僕はバランスの良さを真っ先にチェックします。野球は確率のスポーツ。打たれる確率が低いボールを狙い通りに投げれば、それだけ勝てる確率は高まります。細かいコントロールを身につけるためには、バランスの良さは必要不可欠な要素です。もちろん現時点でバランスが完璧という投手は、このレベルにはいないでしょう。ただし、何点か修正すれば、バランスが良くなる選手はきっといるはずです。そういった投手をひとりでも多く見つけ出したいと思っています。

 昨年まで動作解析を担当していた中日では、主にファームの投手のフォームを撮影し、一流選手のそれと比較したり、担当コーチと相談したりして改善ポイントをアドバイスしていました。今季、セ・リーグで最多勝を獲得した吉見一起や最優秀防御率に輝いたチェン・ウェインもファームにいたころに、フォーム改善をお手伝いしたことがあります。

 チェンは150キロを超えるスピードボールが武器。ところが、入団当初は力みすぎてコントロールが定まりませんでした。そこで、まずはテイクバックを小さくし、腕にムダな力が入らないよう話をしました。さらに体重を前足にしっかり乗せ、リリースポイントをなるべく前にするよう伝えました。今ではスビードに加え、制球力が増し、まさに鬼に金棒の状態です。

 吉見の場合は、もともと球持ちのよさに特徴がある投手。一方で入団前のヒジの故障の影響か、投げる角度が下がり、球威が伸び悩んでいました。「なんとかできないか」。コーチから相談を受け、リリースポイントの高い時と、低い時のピッチングを両方撮影し、本人に説明しました。もちろん結論は、リリースポイントを上げるべき。この点を意識した吉見は、徐々に球速が増し、力強い投球ができるようになりました。

 当然のことながら、こちらのアドバイスも本人の努力なくして、いい方向には向かいません。吉見もチェンも改善点をしっかり自覚し、日々、一生懸命取り組みました。今シーズンの2人の躍進をみると、裏方として少しお役に立てたのではないかと、非常にうれしい気持ちになります。

 可能であれば、この経験を生かし、神戸でも機材を導入して選手にアドバイスができればと思っています。動作解析が専門だった中日時代とは異なり、今回は監督としてチーム全体を見渡し、地域密着の活動も求められる役割です。どこまで自分ができるかは解りませんが、選手の成長のために最大限、力を尽くすつもりです。神戸9クルーズは地元のみなさんの支援なくしては成り立ちません。来シーズンは今年以上の応援をよろしくお願いします。 


池内豊(いけうち・ゆたか)プロフィール>:神戸9クルーズ監督
1952年4月7日、香川県出身。志度商高(現・志度高)から、71年ドラフト4位で南海へ入団。75年に江夏豊らとのトレードの交換要員として、江本孟紀、島野育夫たちと阪神に移籍する。阪神ではサイドスローから内にくいこむシュートを武器にリリーフとして活躍。82年には当時のセ・リーグタイ記録となる72試合に登板するなど、8年連続で30試合以上のマウンドに上がった。85年、長崎啓二とのトレードで大洋に移籍。翌年は阪急に在籍して、86年限りで引退した。その後は阪急(オリックス)、中日、韓国の起亜タイガースで投手コーチ、打撃投手、スコアラーなどを歴任。現職は元南海の門田博光氏が顧問を務めるホークスドリーム社の営業部長を務めている。2010シーズンより神戸の監督に就任。現役時代の通算成績は452試合、31勝31敗30セーブ、防御率3.92。


★携帯サイト「二宮清純.com」では、「ニッポン独立リーグ紀行」と題して四国・九州アイランドリーグ、BCリーグ、関西独立リーグの監督、コーチ、選手が交代で登場し、それぞれの今をレポートします。
 今回は池内監督のコラムです。「阪神で役立った野村野球」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
◎バックナンバーはこちらから