昨年の北京オリンピックで、女子サッカー日本代表がベスト4に進出し大きな話題となった。“なでしこジャパン”の活躍は近年の日本サッカー史で、最も世界の頂点に近づいた快挙ともいえる。そのなでしこジャパンの選手の多くは、女子サッカーリーグである“なでしこリーグ”に所属し、熾烈な戦いを繰り広げている。
 さる11月1日、なでしこリーグディビジョン1・09シーズンが幕を閉じた。シーズン序盤から圧倒的な強さをみせ、リーグを制したのは浦和レッズレディースだ。全8チームで構成されるなでしこリーグディビジョン1は3回戦総当り制、計21節で争われる。浦和は17勝1敗3分けとほぼ完璧な内容で、初めて日本女子サッカー界の頂点に立った。前身のさいたまレイナスが04年にリーグ優勝を飾っているものの、年末に行なわれる全日本選手権も含め、浦和レッズレディースとしてビッグタイトルを獲得したのは初めての経験。レイナスからレッズレディースとして生まれ変わって5シーズン目、悲願を達成する優勝だった。

 優勝を決めたのは10月11日(日)に行なわれた第18節FC高槻戦。敵地での試合ながら序盤から主導権を握った浦和は3−0で快勝。時間差で行なわれた2位日テレ・ベレーザが引き分けたことで、初優勝を飾った。この試合でダメ押しの3点目を挙げたのは、レッズ不動の右サイドバック土橋優貴だ。今季は開幕から全試合で先発し、全ての試合で90分間出場、レッズ初優勝に大きく貢献した。

 最終節ジェフユナイテッド市原・千葉レディース(JEFL)戦は今シーズン唯一の埼玉スタジアム2002での試合だ。すでに優勝を決めていたにも関わらず、スタンドには多くのサポーターが詰めかけ、レッズレディースのリーグ最終戦に大きな声援を送っていた。サイドバックを務める土橋からは、巨大スタジアムに響くサポーターの声が非常に近くに感じた。

「埼玉スタジアムでの試合はレッズデビュー戦以来で少し緊張しました(笑)。でも、スタンドからの“土橋コール”に勇気づけられ、いいプレーができたと思います」

 試合は終始レッズがJEFLを圧倒し7−2で勝利し、記念すべきシーズンを最高の形で締めくくった。土橋自身も前半32分、右サイドからのコーナーキックにヘディングであわせ5点目を奪った。優勝を決めた翌週のホーム戦、いわば凱旋試合でも6−2と大勝し、熱いサポーターの声援に応えている。大きな歓声に包まれるスタンドが彼女たちの背中を押し続ける。これこそがレッズレディースの最高の武器かもしれない。

 1戦1戦を大事に戦った結果

「今年のチームは、シーズン序盤からすごく雰囲気がよかったんです。昨シーズンは3位でしたが、就任して1年目の村松(浩)監督のやり方に手応えを感じていました。“こういうサッカーをやっていけば勝てる”という自信をつけていたんです。ただ、ちょっとしたことで勝ちきれない試合が続いてしまっていました。それが、昨季の反省点です。

 ですから、今年は優勝を意識するというよりも、目の前の1戦1戦を大事に、どんな相手にでも全力を出して自分たちのサッカーをしようと話していました」

 今シーズン、初優勝にたどりついた理由を土橋はこう語った。土橋が浦和に移籍したのは06年。当時から日本代表に名を連ねる安藤梢や山郷のぞみ、柳田美幸といったタレントが揃いながらも、優勝までは届かなかった浦和レッズレディース。今年の悲願達成には、一つの試合を大切にするという意識が働いていた。

 レッズレディースは選手の実力ももちろんだが、日本一といえるサポーターがついている。リーグ最終戦に集まった観客の数は3516人。すでに優勝の決まった、いうならば消化試合にも関わらず、凱旋試合に次ぐ観客動員を記録した。試合後には優勝メダルの授与とセレモニーが行われ、選手とクラブスタッフ、サポーターが一体となる温かい空気が埼玉スタジアムを包み込んだ。
(写真:最終節終了後に行なわれた優勝セレモニーでサポーターの声援に応える)

「私はこれまで3つのクラブに所属しましたが、やはりレッズのサポーターは熱いですね。本当に励みになります。声に迫力がありますよね、試合以外にも応援の練習しているのかなと思うくらいに(笑)。先日のベレーザ戦でも、アウェーなのにレッズサポーターの方が多かったです。どの会場でも大きな声援を送ってもらえるのは、本当に嬉しいですね」

 浦和にとって初の戴冠となったなでしこリーグ09。しかし、今年の戦いはまだ終わらない。男子の天皇杯にあたる全日本女子サッカー選手権大会が11月下旬から開幕する。

「いつも応援してくれるサポーターのためにも、全日本選手権で優勝して2冠を目指したいです。決勝は元旦の国立競技場。そこでまた優勝したいですね」

 なでしこリーグで初優勝をしたものの、実は優勝の瞬間をサポーターと分かち合うことはできなかった。2位のベレーザと試合時間がずれていたため、優勝を知ったのは帰りのバスの中。今度は09年を締めくくる全日本選手権を優勝して、サポーターと優勝の瞬間を分かち合いたい。これは土橋だけでなく、レッズレディース全員の想いでもある。

(第2回につづく)
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土橋優貴(つちはし・ゆうき)プロフィール>
1980年1月16日、徳島県阿南市出身。小学2年から父親の影響で地元の少年サッカークラブでサッカーを始める。富岡東高では陸上部に所属、高校3年時に100mハードルでインターハイに出場。98年、大阪体育大に進学し女子サッカー部に所属。在学時に日本代表に初選出される。02年、田崎真珠に入社しTASAKIペルーレFCに所属。03年にはリーグ戦優勝、03・04年全日本女子サッカー選手権を連覇。06年、大原学園JaSRAサッカークラブへ移籍、当時2部だった同クラブを1部昇格に導く。07年、浦和レッズレディースに移籍。右サイドバックとして活躍し、09年なでしこリーグ優勝に大きく貢献する。






(大山暁生)
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