夏の甲子園の優勝投手で野手に転向して成功した例はたくさんある。西田真二(PL学園−法大−広島)、愛甲猛(横浜高−ロッテ−中日)、金村義明(報徳学園−近鉄−中日−西武)、畠山準(池田高−南海・ダイエー−大洋・横浜)らがそうだ。
 その流れをくむのが今夏の優勝校、中京大中京のエース堂林翔太だ。
 6試合すべてに登板、うち5試合に先発し、同校の43年ぶりの全国制覇に貢献した。

 しかし目立ったのはピッチングよりもバッティングだった。23打数12安打、大会打率5割2分2厘、1本塁打、12打点。決勝戦ではバックスクリーン右に先制2ランを叩きこんだ。
 スカウトもベタ褒めだった。
「高校生(の打者)では1番でしょう。中距離打者だけど、本塁打も打てる。足も肩もあり、構えにオーラがある。バットがインから出て、どこでも打てそう」(広島・苑田聡彦スカウト部長)
「大きいのを打とうと思えば打てる選手。今はチームバッティングに徹しているが、プロでは3番タイプにも4番タイプにもなれる」(ロッテ・松本尚樹シニアスカウト)
「高校生で右ひじをあれだけうまく使える選手はいない。高校生のレベルじゃない」(中日・中田宗男スカウト部長)
「打者としてのバランスがいいし、センスもある」(同・水谷啓昭スカウト)
「ケガ(4月に左ひざ後十字靱帯損傷)の影響はないと思う。いい振りをしていた」(横浜・大久保弘司スカウト)
「堂林もバッターだな。打席での雰囲気がある。成長をみたい」(巨人・山下哲治スカウト部長)
「強いスイングができる」(阪神・北村照文スカウト)

 このように多くの球団が獲得に興味を示したが、広島が2巡目で指名し、交渉権を得た。
「早い時期から高く評価していただいていたので、広島が一番行きたい球団でした」と本人。相思相愛というわけだ。
 甲子園でのバッティングを見ていて脳裡をよぎったのは若き日の山本浩二だ。
 山本は、高校時代は廿日市高のエースで、法大に入ってから野手に転向した。当時の監督・松永怜一がバッターとしてのセンスを見抜いたのだ。
 後に“ミスター赤ヘル”となる山本だが、プロ1年目の成績は打率2割4分、12本塁打、40打点とパッとしない。体の線も細く、中距離ヒッターとみなされていた。
 ただ右中間方向に打つのがうまく、バットの芯でとらえた打球はよく伸びた。堂林とイメージ的に重なる部分が多いのだ。

 球団は内野手として育てる方針のようだが、長所であるバッティングをいかすには外野手のほうがいいのではないか。
 外野手としてなら3年後、いや5年後には“ミスター赤ヘル”の称号を継承できるはずだ。それだけの逸材だと見ている。

<この原稿は2009年11月22日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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