サッカーどころでありながら、1度もシーズン優勝のない清水エスパルス。だが今季は一時首位に立つなど上位争いを繰り広げている。チームを率いるのはかつてクラブで活躍し、快速ドリブラーとして一世を風靡した長谷川健太だ。大胆な若手起用でチームを改革し、就任5年目にしてACL進出に大きく近づいている。当サイト編集長・二宮清純が長谷川監督を直撃、44歳の指揮官が見据える目標とは――。
ニ宮: 今季は第28節で首位に立ちました。実に10年ぶりのことです。もうそんなに時間が経ったのかと感じます。
長谷川: 後期優勝したシーズン以来です。なかなか勝てない時期が続いていましたからね。

ニ宮: 今年はご自身の思うようなサッカーが出来ていますか?
長谷川: 序盤では苦しみましたが、途中からフローデ(・ヨンセン)がチームに溶け込んでくれたことと、岡崎(慎司)が代表に入っていい刺激を受けて結果を残すようになったこと。その辺りが非常に大きかったと思っています。

ニ宮: 今年は守りもいいですよね。
長谷川: 高木和道がガンバに移籍したので、シーズン前から彼の穴を埋めるだけでなく、和道がいなくなってもより強くなったと言われるようになろうとDF陣に話しをしていました。みんな非常に頑張ってくれています。

ニ宮: 長谷川監督は色んな監督の下でプレーされています。代表も含めて一番印象に残っている監督はどなたですか?
長谷川: 日産ではすごくいい経験をさせてもらったので、加茂(周)さんですね。

ニ宮: 加茂さんから一番教わったのはどういう点?
長谷川: 加茂さんから教わった、というと少し違うのかもしれませんが、当時の日産はすでにプロ集団でした。職人気質の人がたくさんいて、その中でいろんな意味で学ぶことができたのはよかったです。その中心にいるのが加茂さんで、監督の人間性にみんな思いを寄せていて、その人の下に集まってプレーしていた。それこそが加茂さんの指導力だとは思うんです。そういうメンバーの一員としてプレーできたというのは非常に自分にとって大きなことでしたね。

ニ宮: 加茂さんは親分肌でしたか?
長谷川: まさにそうですね。ただ、「ワシが面倒見てやるから来い」という風に言ってくれて日産に入部したのですが、たった1年で監督がオスカーに変わってしまって。冗談で「加茂さん、言ってること違うじゃないですか」と言ったら、笑いながら「それがプロというもんや」と返されてしまいました(苦笑)。

ニ宮: 様々な指揮官と接した経験を活かしている点はありますか?
長谷川: そうですね……、アルディレス(・オズワルド)の持つ、独特のモチベーションの上げ方というか。冗談を言いながらチームをまとめてく求心力ですね。話している内容も非常にウィットに富んでいて、話しているだけでなんとなく楽しく惹き込まれる雰囲気を持っている監督でした。

ニ宮: ペリマンはどうでしたか?
長谷川: スティーブは非常に厳格でしたね。自分が決めたこと決して曲げない信念を持っていました。

ニ宮: リベリーノは?
長谷川: リベリーノは……、何にもないですね(笑)。「酒もタバコも女もサッカー選手はやんなきゃだめだ」という感じで。「楽しくやりゃいいんだ、お前ら」って言っていました。ただ彼は、誰よりもサッカーがうまかったですけど。

ニ宮: 日本代表で一緒にやっていた頃のメンバーは、全員が指導者として成功しているわけではありません。都並(敏史)、柱谷(哲二)、高木(琢也)……。高木は1度結果出しましたが、その点では長谷川さんが最も成功している。現在のJリーグで、生え抜きの監督で結果も出している人はそうはいません。
長谷川: Jリーグが始まった頃に選手をやっていた人たちが段々と出てきている段階なんで、これから変わってくると思います。

ニ宮: しかし生え抜きで、Jリーグでは1クラブだけでやってきた。そこで監督になったわけですね。監督でもサッカーの世界なら移籍は当たり前です。その意味でも珍しいですし、一つの特徴と言えます。
長谷川: 自分で言うのも変ですが、義理堅いところはあるんです。お金の話とかいうところよりも、必要としてくれるのであればそこで期待に応えたいというほうが想いが強いですし。意外と不器用っちゃ、不器用なんです。

ニ宮: 現在はJリーグで3位に入ればACLに出場できます。その先にはクラブW杯という世界の舞台が広がります。
長谷川: これは大きな目標ですね。アジアの大会に自分たちの力で出てみたい。今シーズンはその権利を勝ち取るぞという思いを強く持っているので、なんとしても出場権を掴みたいですね。

ニ宮: 浦和レッズやガンバ大阪がヨーロッパのビッグクラブとクラブW杯で試合をしています。ああいうところにチームを持って行きたいですか。
長谷川: そこまで行けるかどうかは分かりませんが、アジアの大会を経験したい。それをさせたいという気持ちもあるし、挑戦してみたいですね。

ニ宮: 長谷川さん自身の指導者としての目標は?
長谷川: 現役時代にできなかった2つのことを指導者として達成したいですね。それはワールドカップ出場と海外リーグでプレーすること。果たせなかった夢なので、指導者として実現させたい。海外に出て指揮を執るチャンスがあるならば、できればヨーロッパに挑戦したいですね。

ニ宮: これまで日本人が外国で監督を務める例は多くありません。
長谷川: 結果を出さなければ当然呼んでもらえません。だからこそ、そういう夢は夢として見続けながらやっていこうと思っています。

<2009年11月20日発売『ビッグコミックオリジナル』(小学館2009年12月5日号)に長谷川監督のインタビュー記事が掲載されています。こちらもぜひご覧ください。>