今シーズン、信濃グランセローズは最下位に終わりました。前期は群馬ダイヤモンドペガサスに5勝6敗、新潟アルビレックスBCには6勝5敗と上信越地区ではいい勝負をしていましたが、後期に入ると群馬に3勝8敗、新潟に4勝7敗と大きく負け越してしまいました。その要因の一つには投手陣が勝負どころで抑え切ることができなかった、という点が挙げられます。こうした反省を踏まえ、来シーズンは新監督のもとで優勝争いができるチームを目指していきたいと思っています。
 チームとしての結果はふるいませんでしたが、昨年の鈴江彬(千葉ロッテ)に続き、今年も2名の選手がNPBのドラフトに指名されました。巨人育成1位の左腕・星野真澄(埼玉栄高−愛知工大−バイタルネット)と、阪神育成1位の右腕・高田周平(関西創価高−創価大)です。投手コーチとしてはやはり嬉しいですし、自分自身の指導への自信にもなります。

 1年目の星野は入団当初から注目された逸材でした。球団からも「左でいいピッチャーが入るから」という報告を受けていましたし、実際にキャンプでもその実力は他の投手陣よりも頭一つ抜けていました。キャッチボールをした際、左にしてはボールが速かったので「順調に育ったら、おもしろい存在になるな」という予感はしていました。最初の情報では、「コントロールにやや難あり」と聞いていたので、その点だけは懸念材料となっていましたが、特に心配するほどのものではありませんでした。

 星野のストレートはシュート回転するため、甘いところにいってしまうことも少なくありません。そこで有効だったのが、大学で覚えたというチェンジアップでした。右打者に対して内側にストレートを投げ、意識をさせる事によりチェンジアップが非常に効果的でした。

 問題は左打者に対してです。左にもインコースを狙いたいところなのですが、抜けて打者に当ててしまうことを恐れ、なかなか投げることができませんでした。信濃では先発や抑えとして登板していましたが、NPBでは左へのワンポイントとして起用されることも十分に考えられます。ですから、左に対してどれだけインコースを攻めることができるかが今後の彼の課題となることでしょう。

 星野がNPBでどれだけ通用するかは未知数ですが、キャッチャーのレベルが高い分、安心して投げることはできると思います。たとえ調子が悪くても、ストレートが走らないときには変化球中心の組み立てをするなど、ピッチャーの特徴を把握しながら、うまくリードしてくれることでしょう。ですから、必要以上に不安になることはありません。それよりもまだ25歳と若いのですから、ひるむことなく攻めのピッチングをしてほしいですね。打たれて覚えるのも、ピッチャーの仕事の一つ。左打者に対しても強気にインコースを攻めていってほしいと思います。

 一部報道では同じ左腕で、育成選手から一軍に這い上がった山口鉄也投手にちなんで「山口2世」と言われていますが、彼に近い活躍は十分に見込めます。しかし、そのためにはボール1個や半分といったレベルのピッチングができるくらいまでにコントロールを磨く必要があります。また、変化球のキレはまだまだNPBのレベルには達していません。ストレートとは違い、自信がないからなのでしょう、チェンジアップ以外は腕が振れていないのです。さらに下半身を鍛え、投げ込みをすることで徐々にキレもアップしていってほしいと思います。

 一方の高田ですが、彼は今シーズン、最速147キロをマークしました。昨シーズンは136キロですから、わずか1年で10キロ以上もアップしたことになります。体が細かったので、鍛えればもう2、3キロは速くなるだろうなとは思っていましたが、これほどまで伸びるとは予想をはるかに上回り、正直驚きました。

 スピードアップの要因としては2つ考えられます。ひとつは気持ちです。入団1年目の昨季は控えめで、あまり気持ちを表に出すタイプではありませんでした。何度となく「悔しくないのか!」と叱ったこともありました。加えて今季は、先発の他に抑えをさせることで「チームの勝利はオマエにかかっている」という責任感を与えました。それがプラスに働き、「絶対に抑えるんだ」という強い気持ちが出てきたのでしょう、しっかりと腕を振って投げられるようになりました。

 もう一つは体です。入団当初は細身で「1年間やるにはもっと体を大きくしないともたないだろうな」という印象がありました。案の定、昨季は夏にスタミナ不足が露呈していました。私もアドバイスしましたし、本人も痛感したのでしょう。ケガの防止ということもあり、オフにはそれまでほとんど取り入れていなかったウエイトトレーニングを上半身の日、下半身の日のローテーションで課題を与え、週4回やらせました。その成果は年明けのキャンプで早速あらわれ、スピードアップしていることは見てすぐにわかりました。単に数字だけが上がったわけではなく、初速と終速がほとんど変わらなくなっていたのです。それを見て、「今年はいけるかもしれない」とその頃から楽しみにしていました。

 しかし、NPBで活躍するためには課題は山積みです。特に変化球は、スライダー、チェンジアップなどを持っていますが、正直言ってどれもNPBクラスで通用するほどのレベルには達していません。そのため、現在は8割がストレートです。せっかくいいストレートをもっているのですから、それをいかす変化球を磨いていってほしいと思います。先日、プロテストを受けた際にはスライダーにキレが出ていました。きちんと腕さえ振れば、投げられるわけですから、あとは実戦で同じように投げることができるかどうかにかかっています。

 高田は、コントロールも決して悪くはありません。ただ、ストライクを投げるコントロールはあるのですが、ストライクからボールになる変化球のコントロールがないために、2ストライクに追い込むと、ストライクゾーンに投げてしまうのです。BCリーグではそれでもかわすことができていましたが、NPBの強打者相手には通用しません。今後は細かいコントロールを磨いていく必要があるでしょう。

 高田は高校や大学で目立った活躍はしていません。大学時代は4年間で登板はわずか1試合。それも打者2人に対してです。しかし、逆に考えれば、それほど肩もヒジも消耗していないということ。そして何より彼はまだまだ発展途上のピッチャーです。のびしろは十分にあり、今後どれだけ成長するかは未知数です。きれいなフォームで無理のない投げ方をしているので、故障しにくいところもいいですね。あとは本人がどこまで頑張ることができるか。ドラフト指名されただけで満足することなく、さらなる高みを目指して努力していって欲しいと思います。

 
島田直也(しまだ・なおや)プロフィール>:信濃グランセローズピッチングコーチ
1970年3月17日、千葉県出身。常総学院時代には甲子園に春夏連続出場を果たし、夏は準優勝に輝いた。1988年、ドラフト外で日本ハムに入団。92年に大洋に移籍し、プロ初勝利を挙げる。94年には50試合に登板してチーム最多の9勝あげると、翌年には初の2ケタ勝利をマーク。97年には最優秀中継ぎ投手を受賞し、98年は横浜38年ぶりの日本一に貢献した。01年にはヤクルトに移籍し、2度目の日本一を経験。03年に近鉄に移籍し、その年限りで現役を引退した。日本ハムの打撃投手を経て、07年より信濃グランセローズのピッチングコーチに就任した。

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