レイズからパイレーツに移籍した岩村明憲の出身地は愛媛県宇和島市である。宇和島沖に藤原純友が根城にした日振島があり、海賊の島として知られている。岩村がパイレーツに入ったのも何かの縁か。

 気になるのは、今年5月に負傷した左ひざだ。マーリンズのクリス・コグランの“反則まがい”のスライディングを受け、前十字靱帯断裂という重傷(後に部分断裂と判明)を負った。これにより、岩村は約3カ月間、戦線を離脱した。

 ケガのシーンを岩村は、はっきりと覚えている。
「まず僕の足の甲の上に、滑り込んできた相手の足が乗って、足を引けなくなった。足が引ければ、相手をかわして受け身をとることもできるのですが、これでは身動きが取れない。そのまま相手の体がヒザをドンと直撃したんです。
(大ケガをしたことは)すぐに分かりました。もう動けなかったですから。今までにない痛みで「これはマズイ」と。診断してもらうと、左足首の三角靱帯、左ヒザの前十字靱帯、内側側副靱帯を損傷していました。
 ドクターには、こう言われました。“手術をしないと、これから先の野球人生は保障できない”。
 ただ不幸中の幸いだったのが、マイアミでの試合だったこと。通訳の人に運転してもらって車で家に帰れました。これが飛行機で移動しないといけないような場所だったら、もっとひどくなっていたかもしれない……」
 内野手にとってひざの負傷は致命的である。これまでのように俊敏で小回りのきく動きはできるのか。
「このオフシーズンで、もう1回、(ひざの)周りの筋肉を鍛えて、太くしていく必要がある」
 自らに言い聞かせるように岩村は言った。

 振り返れば、今季は天国から地獄へ突き落されたような1年だった。
 3月のWBCでは日本代表の不動のセカンドとして連覇に貢献した。前半こそ不調だったが、決勝の韓国戦では一時は貴重な追加点となる犠飛と、イチローの決勝打を誘発するレフト前ヒットを放った。
 メジャーリーグでの野球人生も順風満帆だった。2年目の昨季はレイズのリードオフマンとしてチーム創設11年目にして初のリーグチャンピオンとなり、ワールドシリーズにも出場した。
「(弱小球団の)レイズのワールドシリーズ出場はヤンキースやレッドソックスのそれとは訳が違う」
 とのセリフに自負心がにじんでいた。

 移籍先のパイレーツは1993年からメジャーリーグワーストとなる17年連続負け越しを記録し、低迷が続いている。
「今回のトレードもレイズに入った時と似ているんですよ。弱いチームを強くして、プレーオフを目指す。個人としても打率3割、本塁打を10〜20本打つ。ただ、僕はそれ以上のことをやりたい。レイズでも3年間、その思いでプレーしてきましたから」
 左ひざの状態さえ万全ならば、海賊の頭目になれるはずだ。

<この原稿は2009年12月6日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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