福井ミラクルエレファンツは残念ながら今シーズンも前後期ともに最下位に終わりました。これで昨シーズンから4期連続での最下位です。今シーズンは1年目の昨シーズン、86もの数にのぼってしまった失策数を反省し、天野浩一前監督のもと、キャンプから厳しい練習をしてきたのですが……。結果的には、昨シーズンより1つ多い87を数えてしまいました。さらに、5月には引き分けをはさんで10連敗。頼りにしていた先発3本柱で全く勝ち星を挙げることができず、チーム全体が落胆してしまっていたのです。ここからチームを立て直すことができず、ことごとくやられたシーズンとなってしまいました。
 今シーズンは対戦成績を見ると、上信越地区の3チームとはそれほど力量差は感じられませんでした。しかし、優勝するにはやはり同じ北陸地区の石川ミリオンスターズ、富山サンダーバーズに勝ち越さなければいけません。前後期あわせた対戦成績は、石川戦が7勝15敗2分け、富山戦が6勝15敗3分け。これでは優勝することはできません。

 先述したように今シーズンはミスを少しでも減らそうと取り組んできました。その甲斐あって、確かに捕球することはできるようになったかもしれません。しかし、フライは別ですが、野球というスポーツはゴロを捕っただけではアウトにはならない。その後にきちんと送球しなければならないわけです。ところが、なかなかそれができない。何もバックだけではありません。バッテリーミスも多かった。特に三塁にランナーがいる時、何度キャッチャーのパスボールで自ら得点を相手に献上したかわかりません。

 しかし、来年は球団が創立して3年目です。1年目から指導している私としても、このまま打ちのめされたままで終わりたくはありません。私自身が現役時代に味わった勝つ喜びを、ぜひ福井のファンの皆さんにも味わってほしいのです。縁あって、来シーズンからは監督としてチームを率いることになりました。何が何でも結果を出さなければいけませんから、非常に身が引き締まる思いでいます。

 さて、来シーズン、チームが勝つためには何が必要なのか。私としては個々の技術うんぬんというよりも、野球を知ることが大事だと思っています。例えばランナー一塁の場合、セオリー通りいけば走者を送るためにバントのサインが出ます。しかし、同じバントでも単なる送りバントもあれば、打者も生き残るセーフティバントもある。さらにバントの構えをしながら、併殺を回避しようとヒットエンドランを狙ってくることもあるでしょう。問題は打者本人が、そのサインが何を狙った上での戦術なのか、自分に求められている仕事とは何なのかをきちんと理解しているかどうかということなのです。

 また、他のチームと比べて力不足を感じた一つには打球判断が挙げられます。「この打球だったら、一塁走者は三塁に行けるだろう」と思っていても、ほとんどが二塁でストップしてしまうのです。他のチームであれば、瞬時に判断して三塁へと向かうのに、それがうちのチームの選手はできなかった。スコアには表れないこうしたミスが野球では命取りになるのです。

 しかし、個々の選手の中には着実にレベルアップをしている者もいます。例えば今シーズン、ベストナインに選ばれた坂元洋平(日南学園高−広島医療体育学院専門学校−ウィーンBC)。打率1割4分6厘だった昨シーズンから一転、今シーズンはチームトップの打率3割7厘をたたき出しました。さらに盗塁部門ではリーグ2位となる19個をマークしたのです。

 その要因となったのが、打つ際のステップの改造にありました。昨シーズンの彼はバットが中に入り、ヘッドが出てきませんでした。そこでステップをかえ、打てる格好をつくるようにしたことにより、タイミングが取りやすくなったのです。チームは低迷が続きましたが、彼はモチベーションを下げず、シーズンを通して本当によく頑張ってくれたと思います。

 また、今シーズン途中で石川から移籍してきた内田享良(山梨学院大付高−専修大−IMGアカデミーズ−ケベックキャピタルズ)もチームに入ったばかりの頃は多少とまどいを見せていたものの、少しずつ調子を上げてくれました。内田の場合はステップしてバックスイングをした際にグリップの位置に遊びがなかったためにバットが出てこず、振り遅れが多くありました。しかし、それも改善され、だいぶ変化球にも対応できるようになってきています。本人もNPBを目指すとはっきり言っていますので、来シーズンが楽しみですね。

 さて、新しく野手コーチには塩谷和彦(神港学園高−阪神−オリックス−SKワイバーンズ)が就任しました。塩谷は私が阪神のディレクターを務めていた時にルーキーとして入団してきた選手です。捕手としては出場機会に恵まれませんでしたが、内野手に転向してからは貴重な戦力として試合に出場しました。当時阪神で体験し、得られたことはきっと彼の身体に染み付いていることでしょう。それを若手の指導に生かしてくれるのではないかと期待しています。そして、何よりも彼は選手と一緒に苦労することができるという点を私は買っているのです。

 チームも新体制となり、新規一転、来シーズンこそはファンの皆さんに喜んでもらえるような試合をしたいと思っています。どうぞ来シーズンはチームに期待し、そしてより一層の応援をよろしくお願いいたします。

<野田征稔(のだ・ゆきとし)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツ新監督
1941年12月5日、長崎県出身。PL学園高校、PL教団を経て1963年秋に阪神に入団。70年には88試合に出場し頭角を表し始めると、翌年よりセカンドのレギュラーとして定着。72年にはリーグ最多となる21個の犠打をマークした、75年に現役を引退。その後は阪神のマネジャー、二軍コーチ、フロント、二軍監督、スカウトを務めた。2008年、福井ミラクルエレファンツの野手コーチに就任。来季より監督としてチームを率いる。
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