やましき沈黙――。聞いていて背筋が凍るほど衝撃的な証言だった。
 NHKがこの8月に放送した「日本海軍 400時間の証言」の一場面。誰もが太平洋戦争は無謀だと知りつつ、止められなかった。「自分の意見を持ちながら、それをわきにおいて流されていった」。ある海軍大佐は海軍の体質をそのように分析した。
「本当のことを話すと非国民になってしまう」。4年前、サッカーの元日本代表は私にこう言った。あるテレビ番組での打ち合わせ。ドイツW杯で日本はオーストラリア、クロアチア、ブラジルと同組に入った。「引き分けが2つで勝ち点2。ブラジルにはどう転んでも勝てない」。彼は言った。
 ところが番組が始まると、前言を翻して楽観的な予想に終始した。帰り際、「あれは予想じゃなくて希望的観測じゃないの?」と水を向けると、彼は先のセリフを口にした。
 こちらは、やましき沈黙ならぬやましきリップサービス――。「いいじゃないの。別にハズしたところで誰に迷惑がかかるわけじゃないんだから」。そういう捨てゼリフもあったのか。希望的観測がはずれても発言者は無傷だが、国民の失望のはけ口は、全て現場に向けられる。

 南アW杯の組み分けが決まった。日本はオランダ、カメルーン、デンマークが同居するE組。予選突破のオッズはウイリアムヒルが10倍、ゲームブッカーズが10倍、ラドブロークスが7倍でいずれも日本が4カ国中最低。まぁシカゴを2016年五輪開催地の本命に定めた英ブックメーカーのオッズを真に受ける必要はないが、倍率は妥当なところだ。
 しかし、ここ数日のテレビを見ていると「やましきリップサービス」のオンパレード。元日本代表やJリーグ監督経験者がやれ勝ち点5だ7だと進軍ラッパを吹きまくっている。別にペシミストになれと言っているわけではない。臆病に振る舞えといっているわけでもない。

 しかし、陽だまりで見る甘い夢のような希望的観測がこの国の代表チームに何がしかでもプラスの材料をもたらすだろうか。太鼓持ちはほどほどにして現実を直視し、その上で建設的な提言を行なうべきではないか。
 たかがサッカーの話というなかれ。今の状況は4年前とそっくりだ。いや、開戦前夜もそうだったのかもしれない。

<この原稿は09年12月9日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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