球団創設から監督を務められてきた鈴木康友さんが勇退され、2代目監督に就任することになりました横田久則です。監督就任の打診をされた際には「NPBの指導経験のない私に本当にできるだろうか?」と不安な気持ちもありました。しかし、やはりお世話になっている球団にいただいたせっかくのオファーですから、とにかく一生懸命やってみようと決意し、引き受けることにした次第です。監督業は初めてですが、チームのために精一杯の努力をしていきたいと思っていますので、ぜひ来シーズンも富山サンダーバーズを応援していただきたいと思っています。
 さて、改めて今シーズンを振り返ると、前後期ともに優勝を逃し、そしてプレーオフでもあと一歩のところでBCリーグチャンピオンシップへの出場権を逃してしまいました。本当に「悔しい」のひと言に尽きます。

 北陸地区で優勝した石川ミリオンスターズさんとの一番の違いは、投手力と守備力にあったと感じています。特にエースの南和彰(神港学園高−福井工大−巨人−カルガリーバイパーズ)を全く打ち崩せなかったことが大きかったですね。今シーズンの彼との対戦成績は12試合で2勝9敗。これでは他の試合で白星を挙げても、なかなか貯金はつくることはできません。

 正直、彼の実力はこのBCリーグにおいて突出しています。スピードはもちろん、バリエーションに富んだコンビネーションを組めるだけのコントロール、そして豊富な経験……。彼ならNPBでも中継ぎでそこそこの成績を挙げることができるでしょう。とはいえ、その南を打ち崩せないようではNPBには行けないことも、また事実なのです。また、守りの面でも石川にはかなわなかったと感じています。

 守備がいかに大事かは、私が選手としていた頃の「黄金期」と言われる西武を例にあげてもわかります。当時の西武は森祇晶監督の下、守備がしっかりと鍛えられていました。いくら打線が強くても、やはりバッティングは水もの。短期決戦なら打力で勝負できますが、1年を通してのリーグ戦となると、そうはいきません。当時の西武が接戦に強かったのも、守備で崩れることがなかったからです。

 ところが、富山はリーグで2番目に多い81ものエラーを記録しました。加えて数字には表れないようなミスも数多くありました。例えば、NPBなら捕れているような打球でも、最初の一歩が遅いためにヒットにしてしまったり……。一見、エラーには見えないようで、実はミスをしていることも少なくなかったのです。

 新しく就任した進藤達哉コーチは現役時代、サードでゴールデングラブ賞3度受賞の実績をもつほどの腕前。その進藤コーチに徹底的に守備力を強化してもらいたいと思っています。やはり観客に観に来てもらう以上、NPBの2軍と対等に戦えるくらいのレベルを求めたいですね。

 即戦力の新加入選手

 さて、9日にはドラフト会議が行なわれました。富山は3名の選手を獲得しました。投手は右腕の吉見康平(桐蔭学園高−桐蔭横浜大学)と左腕の内田和肖(JR東日本東北野球部)、そして外野手の高野雅哉(松商学園−東北福祉大学)です。補強ポイントだった左投手、右のスラッガー、そして今回は体格の大きい子が欲しいなと思っていたので、全員180センチ以上と、満足のいくドラフトになりました。

 あえて言えば左投手を2枚欲しいなと思っていたのですが、吉見は東京会場のトライアウトで見た時に、光るものを感じたので獲得することに決めました。真っすぐは135キロでしたが、腕の使い方が非常にしなやかですので、練習次第で140キロは軽く超えていくことでしょう。もちろん、フタをあけてみなければわからない部分はありますが、スライダーのキレもよく安定感があるかなという印象があります。

 一方、左の内田はスピードこそ130キロ未満ではあったものの、打者とのかけひきが非常にうまい。普通、トライアウトとなると、アピールしようと力んでしまう選手が多い中、彼は飄々と投げていました。コントロールもよく、何より打者のタイミングを外すのがうまいと感じました。しかし、185センチ、73キロと非常に細く、これから鍛えていく必要がありますね。体が大きくなれば、スピードも出てくることでしょう。

 ただ一人、野手の高野は外野手として獲得しましたが、実はキャッチャー経験もあるのです。人数の少ないBCリーグでは、ブルペンキャッチャーを確保することもままなりません。ですから、キャッチャーができる選手というのは非常に貴重な人材なのです。もちろん、高野は打者としても期待できる選手です。大学ではレギュラーにはなれなかったようですが、それでもレベルの高いところでやってきただけはあります。野手コーチに訊いたところ非常にシャープな振りをしていたとのこと。足もそこそこあるようですし、即戦力として期待しています。

 もう一人、今オフに入団したのが信濃グランセローズから移籍してきた高森一生(伊香高−甲賀健康医療専門学校−石川)です。彼のピッチングは石川に所属している時から見ていましたが、課題ははっきりしています。コントロールです。いつもはストライクが入るのに、ピンチになるとどうしてもボールが抜けてしまうのです。ただ、フォームを見ても特にコントロールが乱れるような投げ方はしていませんので技術的なことではなく、やはりメンタル面の弱さなのでしょう。どのスポーツもそうですが、試合では8割がメンタルでの勝負。高森もその部分を克服していかなければなりません。環境が変わり、何かをきっかけにして自信さえつかめば、安定してくるのではないかと思っています。

 来年はいよいよリーグ創設4年目を迎えます。BCリーグはこの3年で投打ともに着実にレベルアップしています。先輩である四国・九州アイランドリーグとの差もどんどん縮まっています。それは独立リーググランドチャンピオンを見ても明らかです。来シーズンも地域密着・地域貢献というBCリーグの理念を大事にしながら、優勝を目指してグラウンドで精一杯のプレーを見せていきたいと思っています。


横田久則(よこた・ひさのり)プロフィール>:富山サンダーバーズ監督
1967年9月8日、和歌山県出身。那賀高からドラフト6位で指名を受けて1986年、西武に入団した。その後、ロッテ、阪神へと移籍。02年オフに阪神から戦力外通告を受けるも、台湾の兄弟エレファンツに入団した。2年目には5勝を挙げる活躍を見せたが、肩の故障などに苦しみ、06年限りで引退を決意。07年より富山サンダーバーズのコーチに就任。来季より2代目監督として指揮を執る。
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