球団創設以来、3年間石川ミリオンスターズの指揮をしてこられた金森栄治前監督の後を引き継ぎ、2代目監督に就任した森慎二です。昨シーズンはBCリーグもさることながら、指導者としても初めての年でした。正直、始めは何をしていいのかわからなかったのですが、金森さんにアドバイスをいただきながら、なんとか1年間やり切ることができました。チームとしてもリーグチャンピオンシップで群馬ダイヤモンドペガサスに負けはしたものの、次につながるシーズンを送ることができたのではないかと思っています。
 さて、その群馬とのチャンピオンシップ終了後に球団から監督就任への要請があったわけですが、その場では保留とさせていただきました。というのも、まさか自分にそういった話があるとは全く想像すらしておらず、ビックリしすぎてすぐには頭も気持ちも整理することができなかったからです。しかし、要請していただくこと自体、球団から信用されている証拠。それだけ自分自身の力を評価していただいているのだと気づき、それならば期待に応えられるように精一杯頑張ろうと、思い切って引き受けることにしました。

 監督としての最初の仕事としては、選手の補強があります。11月には東京、石川、群馬の3会場で合同トライアウトが行なわれ、それを受けて12月にはドラフト会議がありました。石川が指名したのはピッチャー2人、内野手1人の合計3人。そのうち2人は今年3月に高校を卒業する18歳です。

 補強ポイントの一つとして考えていたのは、若くて元気のある選手を入れることによってレギュラー選手への危機感を促し、そしてレギュラーを掴みきれてきれていない選手にもライバル心を抱いてもらうということです。というのも、人間は満足感や安心感がありすぎると、そこから前に進もうとする意欲が自然と低下してしまうもの。伸び盛りの時期にある彼らだからこそ、成長を促したいと考えたのです。それがひいてはチームの活性化にもつながると思っています。

 では、ここで入団が決定したルーキーを紹介しましょう。3人の中で唯一、大卒の田中雄己(千葉明徳高−千葉商科大学)は右の本格派。投げ方も豪快で、BCリーグにはいないタイプですね。肩が出来上がっていないトライアウトの時期(11月)に既に140キロ以上を出していましたので、これだけでも素材の高さが窺えます。コントロールに関しても下半身ができてくれば問題ないでしょう。とはいえ、今すぐにNPBで通用するまでには至っていません。全てをかえるわけではありませんが、不足している部分を補うことは必要です。もともと持っているものが高いだけに、今後どう化けるか楽しみなピッチャーです。

 もう一人のピッチャー、荒木兼太(藤岡北高)は身長180センチながら体重69キロと、一見線の細さが気になるところですが、ストレートのキレが抜群です。スピードこそ130キロ台半ばなのですが、トライアウトではほぼストレートを投げながら空振りをとっていたのが印象的でした。身長はありますし、何よりもまだ18歳。これから体ができてくれば面白い存在になってくれるのではないかと考えています。

 ただ一人野手として指名した平田陸(元石川高)は18歳と若いながら守備が堅実でしたし、スイングを見ても鋭さをもっていました。また、チームにとっては貴重な左バッターというのも大きかったですね。もちろん、これまでは高校生レベルでやってきたわけですから、まずはプロのボールや打球の速さに慣れることから始めなければいけないでしょう。しかし、将来性豊かであることは確か。田中、荒木ともに1年目からレギュラーとして活躍することが期待されます。今後、球団独自のトライアウトで何人かの補強を行いますが、新人選手の加入によって既存選手にもいい影響が出てくることでしょう。

 昨シーズンは年齢や在籍年数に関わらず、選手たちの成長を数多く見ることができました。1年目でも主力として活躍し、最後まで成績を残した選手もいます。そのうちの一人が楠本大樹(関西創価高−創価大−佐川印刷)です。彼はバットコントロールが非常に巧みで、打率部門では3割2分8厘とリーグでもベスト5に入る数字を残しました。

 実は彼は社会人の佐川印刷では軟式をやっていたのです。にもかかわらず、1年目からこうした立派な数字を残すことができました。本人としても大きな自信になったことでしょうし、この1年でBCリーグのレベルも十分に把握したはずです。人一倍負けず嫌いで、「打ちたい」「勝ちたい」という思いが強い楠本。2年目の今シーズン、どんな活躍を見せてくれるのか非常に楽しみです。

 一方、ピッチャー陣で昨シーズン最も大きな成長を遂げたのが山下英(七尾工−名古屋学院大)です。スピードはそれほどないのですが、昨シーズンは低めに丁寧に集め、ストライクからボールになる変化球をうまく使っていました。

 実は山下、開幕前のオープン戦で先発をさせた際、私が「何点に抑えるつもりだ?」と訊くと、「2点以内に」と答えたのです。そこで私はこう言いました。「試合前から点数を取られることを想定して投げていては、それこそ5点も6点も取られるぞ。いつも1点もやらないつもりで投げろ」と。そのことを肝に銘じて投げたのでしょう。開幕後、山下は投げるたびに試合への臨み方、気持ちの持って行き方が上手くなっていきました。それがチームではエース南和彰(神港学園高−福井工大−巨人−カルガリーバイパーズ)に次ぐ23試合に登板、8勝を挙げ、防御率もリーグでわずか6人しかない1点台という好成績に結びついたのだと思います。もちろん、今シーズンも先発の柱の一人として、しっかりとチームを引っ張っていってもらいたいと思っています。

 今シーズンのチームとしての目標はもちろん前後期ともに優勝し、リーグ王者の座を奪還すること。そしてリーグとしては初の独立リーグチャンピオンになることです。そのためにはかたちうんぬんよりも、結果を求めていきたいと思っています。ズバリ、勝つチームにすること。調子が悪くても、ボールに喰らいつき、はいつくばってでも1点を取りに行き、そして1点を防ぐ。選手たちには何がなんでも勝つという意識を常にもち、1球、1試合を大事にしていってほしいですね。そして、そうした必死にプレーすることでファンにも伝わるものがあるのではないかと思っています。


森慎二(もり・しんじ)プロフィール>:石川ミリオンスターズ監督
1974年9月12日、山口県出身、岩国工高卒業後、新日鉄光、新日鉄君津を経て、1997年にドラフト2位で西武に入団。途中、先発からリリーバーに転向し、2000年にはクローザーとして23セーブを挙げる。貴重なセットアッパーとしてチームを支えた02、03年には最優秀中継ぎ投手に輝いた。05年オフ、ポスティングシステムによりタンパベイ・デビルレイズ(現レイズ)に移籍。2年間のメジャー契約を結ぶも、オープン戦初登板で右肩を脱臼。07年、球団から契約を解除されたものの、復帰を目指してリハビリを続けてきた。09年より石川ミリオンスターズのプレーイングコーチに就任。今季より金森栄治前監督の後を引き継ぎ、2代目監督としてチームの指揮を執る。


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