今季、長崎は新たに9名の選手が入団します。オフのトライアウトなどを通じて考えていた補強ポイントは2つ。ひとつは右打者を増やすこと、もうひとつは東北楽天に育成指名を受けた松井宏次の穴埋めです。その目的はほぼ達成できたのではないでしょうか。
 右打者では高知からパンチ力のある大西正剛を獲得しました。他に入団する5名の野手のうち、4名は右打ちです。ここまで右打ちにこだわった背景は、昨季の反省があります。2009年のチームは末次峰明(愛媛へ移籍)、根鈴雄次など中軸に左打者が多く、どうしてもサウスポーに弱い傾向がありました。リーグチャンピオンシップで高知の吉川岳に第1戦、第3戦と連敗したのが、その象徴です。シーズン中には、彼らの代役として試合に出られる右打者を育成しようと試みましたが、結局うまくいきませんでした。

 今年は昨季16本塁打を放った末次が抜け、長打力の低下が予想されます。彼の代わりとして、ぜひ期待したいのが、今回、独自のトライアウトで獲得した田中宏明(愛産大工業高校−星城大学(中退)−NAGOYA23)です。身長183cm、体重95kgの体格からもわかるようにパワーは充分。トライアウトでも何本かさく越えをみせていました。鍛えれば右の長距離砲として、ある程度の長打を見込めそうです。左の根鈴と2人で中軸を担ってくれれば、打線のバランスが良くなるでしょう。

 松井の後釜には、合同トライアウト経由で指名した渡辺裕起(鹿児島高−九州産業大)を第1候補として考えています。ショートのポジションで内野守備を引き締めていた松井の後を務めるには、何より守備力が重要です。その点、渡辺は捕球位置や体勢など基本ができていました。キャンプ、実戦を通じて丁寧に練習を続けていけば、守りの安定性はアップするはずです。野球はまず守れなければ試合になりません。いい内野手を確保でき、一安心しています。

 投手では元千葉ロッテの小林憲幸(元徳島)の入団が決まりました。彼は徳島時代同様、抑えを考えています。というのも小林をクローザ―にすることで、若い土田瑞起を先発に固定したいからです。昨季の土田は主に前期は先発、後期は抑えを任せました。実は彼をクローザーにする構想は、シーズン当初から温めていたものでした。より速球をアピールするために、短いイニングを投げさせたほうがよいと感じたからです。

 ただ、1年間やってみて、やはり土田は先発で経験を積ませるべきだとの結論に至りました。リーグチャンピオンシップでも先発で好投しましたし、高卒からの2年間で着実にレベルは上がっています。ならば長いイニングで安定した実力を示したほうが、評価が高まるのではないでしょうか。一方、小林の場合は今年で25歳。NPBに復帰するには何より即戦力としての力が問われます。その意味では短いイニングを速球で封じ込めるピッチングをみせたほうがよいでしょう。この2人の役割分担が、彼らにとってもチームにとっても良い方向に転がってくれることを望んでいます。

 今季から福岡が活動を休止し、九州のチームは長崎だけになってしまいました。長崎も決して経営状況は明るくないものの、ここでダメになってしまっては九州での独立リーグの灯が消えてしまいます。ジャパン・フューチャー・ベースボールリーグ(JFBL)との交流戦が組まれ、三重や大阪までの遠征は大変ですが、これを言い訳にはできません。現場としてチームを存続させるためにできるのは結果を出すこと。目標はもちろん今年かなわなかった前後期制覇と独立リーグ日本一です。なんとか選手たちのプレーで地元を盛り上げていきたいと強く思っています。

 まだセインツの野球を観たことがない方はぜひ一度、シーズンが始まったら球場にお越しください。今年も1年間、応援よろしくお願いします。
  

長冨浩志(ながどみ・ひろし)プロフィール>:長崎セインツ監督
1961年6月10日、千葉県出身。千葉日本大学第一高卒業後、国士舘大、NTT関東を経て86年、ドラフト1位で広島に入団。1年目から2ケタ勝利をあげてリーグ優勝に貢献し、新人王に輝いた。MAX150キロのストレートを武器とする本格派右腕として、その後も広島の投手陣の要として活躍。95年に日本ハムにトレード移籍し、技巧派リリーフ投手に転じた。98年にダイエー(現ソフトバンク)に移籍し、2連覇に貢献。2002年に現役引退。ダイエー、ソフトバンクコーチを経て、07年からBCリーグ・石川のコーチとして初年度のリーグ制覇を支えた。09年より長崎の監督に就任。






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