年末年始のスポーツニュースで俄然注目を集めたのがタイガーウッズ。それがいつものゴルフに関することでなく、プライベートのゴシップネタ。単なる自動車事故のはずが、浮気ネタへ。さらには愛人が何人も出てきて、ついには同性愛疑惑や異常性愛者のような話まで出てきた。まあ、ここまできたら何が本当で、何が嘘なのかわからないし、判断のしようもないが、なんらかの火種はあったことは間違いないのだろう。本人も静かに反省の時を過ごしているようだ。
 ただ今回の彼へのパッシングは、単なる「私生活が乱れたスポーツ選手への怒り」ではなく、人種問題の影もチラつき、素直に同調できない面もある。まあ、それ以上に成功者へ対する妬みが、騒動の根底にあるのは間違いなとは思うが……ちょっと騒ぎ過ぎの感がある。

 誤解を恐れずに言うならば、今回は健全な男子が女子にちょっかいを出した(出された?)という、どこにでもある話。もちろん、妻帯者である彼が社会的モラルに反したのは確かだが、犯罪でもなく、いわば家庭や個人間の問題で、社会問題というほどの話ではない。

 が、ここまでパッシングを受けるのはやはり彼がいままで「人格者」として売り出していたことに対する反動なのだろう。もし、「不倫は文化だ」といった発言を普段から繰り返すようなワル男ぶりを見せていたら、世の中は「やはりね」くらいの反応で、むしろ話題づくりになったかもしれない。ところが、ロールモデルとしてスポンサーもたくさんついていた彼はその対極にいた立場。だからこそNewsにもなったし、バッシングの嵐も起きてしまった。

 もちろん、「一流のスポーツマンは、社会のロールモデルであるべき」という考え方は分かる。でもちょっと待ってほしい。我々が彼に求めていたのは人格者である前に「超人的なプレー」ではなかったのか? 彼のプライベートが乱れていたからと言って、ゴルフが乱れていたわけではないのだ。彼の私生活はおまけであり、彼のゴルフスコアとは直接関係のないこと。どんなに優れた人格者であっても、ゴルフがうまくなければ、彼はどこかの街で「いい人」として静かに暮らしていたはずだ。もちろん、人格者であるほうがいいに決まっているが、その前提条件として、プレーがスペシャルでないとプロスポーツの世界では生きていけない。

 それにしても、彼ほどの選手であれば、この種の問題に対する教育は受けていただろうし、専門家が対処できたはずだと思うのだが、一連の対応をみていると素人のような印象を受ける。お相手は、タイガーをゆすることを最初から狙っていたような「お水系」の方ばかり。「もう少し相手を選べただろうに」と思ったのは私だけではないはずだ。このあたりはもう少し、いいアドバイザーを身の回りに置いたほうがよかったと思うけど。

 さて、春にもタイガーの復帰がうわさされているが、まだどのように戻ってくるのかは未定。男子プロゴルフ界に200億ドルの損失を与えたと言われる(ブルームバーグ発表)彼の活動自粛からの復帰は、ゴルフ界はもちろんファンだって心待ちにしているはず。そろそろお灸をすえるのはやめにして、ゴルファーとしてのウッズの復帰を応援したい。僕らが見たいのは彼の私生活でなく、彼のプレーなのだから。

 でも、ヒールとして登場し、批判に対して「だからなに?」と言い返すような彼をちょっと期待しているのは私だけ?


白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための新会社「株式会社アスロニア」の代表取締役に就任。
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