2月14日にダラスで開催された今季のNBAオールスターゲームには、バスケットボール史上最多の108,713人の大観衆が集まった。
 昨年オープンしたばかりのカウボーイズスタジアムは噂通り豪華絢爛な見事な建物だった。そして、その大球場が立錐の余地もないほど埋まった様は壮観で、雰囲気は荘厳に感じられたほど。
 試合前やハーフタイムにはアリシア・キーズ、ネリー、シャキーラら豪華ゲストも登場。彼らのパフォーマンスも素晴らしいもので、大イベントに大きな華を添えてくれた。会場に居合わせたすべての人間は、この夜のことを生涯忘れないに違いない。それはNBAからファンに贈られた、とびきりスウィートなバレンタインデーの贈り物だったと言ってよい。
(写真:豪華スタジアムは異様な熱気に包まれた)
 ただその一方で、「この雰囲気に騙されてはいけない」という声が現場に多かったのも事実ではある。
 舞台をカウボーイズスタジアムに移す以前、通常のアリーナで行なわれた金曜、土曜のイベントは盛り上がりに欠けるものだった。コービー・ブライアント、アレン・アイバーソンといった大物の欠場も相まって、スターパワーの欠如は深刻。
 オールスターには人々を惹きつける呼び物が不可欠である。だが今年の「スター」はどの選手でもなく、巨大なスタジアムそのものだった。しかも、このスタジアムはNFLチームであるカウボーイズのものであり、基本的にはNBAと無関係の建物なのだから、確かに大盛況を喜び過ぎるべきではないのかもしれない。

 さらに景気の悪い話を続ければ、昨今のNBAでは労使交渉の不調が大きな話題となっている。詳細な言及は避けたいが、2011年以降の労使を巡るオーナー側と選手会の話し合いがこれまでのところ進展しておらず、前途も多難。オールスター期間中にはデビッド・スターン・コミッショナーが「NBAは今季に4億ドルの赤字を出している」などと声明を発表し、不安を煽った。
 まだ時間はあるだけに、悲観的になり過ぎるのは良くない。しかしこのまま行けば、来季終了後にストライキに突入する可能性はもうゼロではあるまい。もしも財政面で低迷が続き、2011〜12年シーズンにストライキ突入となった場合、NBAは人気面で尋常ではないダメージを被ることになるだろう。
(写真:スターン・コミッショナーもリーグの財政を懸念するコメントを残している)

 そんな状況を考えれば、ロックアウトが現実となるかはどうあれ、今季後半と来季はNBAにとって非常に重要なシーズンとなりそうである。
「NFL、MLBに続く第3のリーグ」という立場が確立されてしまった現状では、1999年以来となるストライキは致命傷となりかねない。その惨状を避けるため、あるいはストライキになってしまったとして数カ月のシーズン停止を乗り切るだけの体力を付けるために、今のうちにNBAの健全な魅力を世間にアピールしておく必要がある。

 とりあえず手っ取り早いところで、今季ファイナルではコービー・ブライアント対レブロン・ジェームズというメガスターの直接対決実現に期待がかかる。
 現在のNBAで競技を超越した人気、知名度、実力を誇るのはこの2人のみ。その両雄が率いるロサンゼルス・レイカーズとキャブス(クリーブランド・キャバリアーズ)がファイナルで激突すれば、全世界的な話題を呼ぶことは必至。リーグ全体が財政不振に悩んでいる現状で、このカードは起死回生の呼び物となるかもしれない。

 もちろん周囲のライバルチームたちは、多くの人々が望む決戦実現の阻止に全力を尽くすはず。最終的に両雄が勝ち進むのがベストシナリオだが、それまでの戦いが充実するに越したことはない。
 レイカーズとキャブズにレベルの高い包囲網が生まれるかどうか、そして両チームがそれを突破してファイナルに駒を進めるかどうか。それらこそが今季後半の最大の注目点である。

 さらにファイナル後には、通称「レブロンの夏」と呼ばれるオフシーズンが待ち受けている。レブロン、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュといったスター選手が一斉にFA権を得る今夏は、「リーグ史上に残るほど重要な季節になる」と、もう数年前から待望され続けてきた。特にレブロンの去就は、今季の優勝争いを凌駕するほど大きなニュースとなるに違いない。
 もしも「コービー対レブロンの決戦、FA史上最大の夏」というベストシナリオが現実のものとなれば、世間もNBAにこれまで以上に大きな関心を寄せるはず。必然的にスター選手たちの知名度も上がる。そのときには、NBAの人気、地位も大きく回復することになるのだろう。
(写真:今年のオールスターでMVPを獲得したドウェイン・ウェイドの去就も来オフの注目点のひとつ)

 繰り返しになるが、たとえこれから1年半の間に何が起ころうと、アメリカの景気次第でNBAのロックアウト突入は避けられないのかもしれない(注:確定的という意味ではない)。だがそうだとしても、今のうちにこのリーグの魅力をアピールしておくことには計り知れないほど重要な意味がある。
 とりあえずは、曲がりなりにも盛り上がりをみせたオールスターを終えて、シーズン後半戦の盛況に期待したいところ。ここで業界全体が力をあわせ、現状を向上させていけば、NBAにも明るい未来は必ず存在する。
(写真:選手たちも「歴史的イベントだ」と会場を絶賛した)

 バレンタインデーの興奮を、一夜限りのものにしてはならない――。神殿のようなスタジアムの力を借りずとも、盛大な人気を呼ぶオールスターゲームを開催することは、将来的に決して不可能ではないはずなのである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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