「球数制限のエース」
「岩隈の頭は何とかならんのか」
「投手陣に“岩隈病”が蔓延している」
 これだけこき下ろされれば、言った側に悪意はなくても、言われた当人はグサッとくるものだ。

 4年間、楽天のエース岩隈久志は前監督・野村克也のボヤキのターゲットにされ続けた。
「全然、おもしろくないですね。傷付きますね、むしろ。(ボヤキは)なるべく見ないようにしていました。見ても自分の中でプラスになるものは何もありませんから」
 過日、私がインタビュアーを務めるBS朝日『勝負の瞬間(とき)』の収録で会った際、岩隈はこう語った。
 続けて、こうも。
「僕はやっぱり信頼が欲しいですよね。ピッチャーってマウンドに立ったら自信がなければいいボールは投げられないんです。(監督からの)信頼が実感できなければマウンドで不安になると思うんです。
(監督から)いろいろ言われれば、“オレのポジションって何だろう”と思うし、自信もなくなってくる。それは僕だけじゃなかったと思いますよ」

 もちろんノムさんだってボヤいてばかりいたわけではない。褒めるときは、しっかりと褒めている。
「このチームは岩隈にかかっている」
「今はダルビッシュより岩隈のほうが安定感があるでしょ」
「エースの存在感は大きい。中心がしっかりすれば、チームは機能する」
 これを受けて岩隈は言った。
「本当にこう言っていただけると僕はうれしいんです。自信にもなるし、“よーし、やってやろう”という気になってくる。厳しい言葉と見比べると“いったい、どっちが本当なの?”と思っちゃいますよね」

 良薬は口に苦し、とも言う。
 岩隈はノムさんとの4年間を大切な時間だったと考えている。
「僕のように経験を積んできた選手に対し、普通の監督なら、あそこまで言いませんよね。ところが野村監督は言ってくれた。今考えれば、ものすごくありがたいことですよ。それは今になってつくづく感じますね」
 その物言いに、エースとしての器量を感じた。
 現監督のマーティ・ブラウンは“褒め上手”である。審判の抗議ついでにベースを放り投げても、選手をクサらせるようなことはしなかった。
 昨季まで千葉ロッテの監督を務めたボビー・バレンタインに象徴されるように米国人監督はムチよりもアメの使い方がうまい。
 あまり甘過ぎるのも考えものだが、選手のプライドをくすぐる上で“糖分”は不可欠。
 果たして褒め言葉に飢えているエースに対して、新監督はどんな“言葉のアメ”を用いるのか。そしてエースは、それにどう応えるのか。

<この原稿は2010年3月7日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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