2月27日、28日には阪神2軍と交流試合を行いました。27日は香川が単独で、28日はアイランドリーグ選抜チームで挑んだのですが、結果は2連敗。特に27日の試合では四死球やエラーからの失点が多く、反省材料の多い試合となりました。2月の自主トレスタートから1カ月。新人や若手はまず、この試合に向けて調整をしてほしかったのですが、どうしても仕上がりは実績のある投手のほうが良く、経験のない選手に機会を与えられなかった点は残念でした。
 27日の試合で先発したのは、韓国から来たナックルボーラー、キム・ギョンテ(元LGツインズ)。立ち上がりは死球とボークで波に乗れず、1点を失いました。リズムが悪かった要因はナックルボールに偏りすぎた配球です。初回の割合はナックルボールが8割を占めていたのではないでしょうか。NPB相手に自分のボールがどのくらい通用するか、見極めたかったのでしょうが、これではいくら自信のある球でも攻略されてしまいます。

「もう少し、まっすぐを交えてみては?」
 イニングの合間にアドバイスをして、ナックルボールの割合を5割程度に落としました。すると、残り2イニングは無失点。彼はストレートの球速もそこそこありますから、ナックルボールとの緩急をつければ、打者にとっては厄介です。加えてナックルボーラーは球が遅く不規則に変化するため、ランナーに走られやすい弱点を持っています。その意味でも同じボールを続けて投げるのはよくありません。

 シーズンが始まれば、対戦相手はこういった弱点をどんどん突いてくることでしょう。とはいえ、彼も韓国プロ野球で通算206試合の登板経験を持つ投手です。34歳のベテランではありますが、NPBで投げることを目標にしています。いかに課題を克服して結果を残すか。ここがワンランク上に行くためのポイントとなるはずです。

 元オリックスの前川勝彦も27、28日の試合で連投しました。しばらく実戦から遠ざかっていた影響か、セットポジションの投球でボークをとられたりしたものの、まずまずの仕上がりをみせています。球速もこの時期で140キロ台前半をマークしていますし、暖かくなれば、もっとスピードは増すはずです。NPBで31勝をあげた左腕だけに、ボールの出し入れの投球術には一日の長があります。残る不安は長いイニングや連投に耐えるスタミナがあるかどうか。今後の実戦を通じて、起用法を見極めることになるでしょう。

 もし彼がNPBに戻るとすれば、かつてのようにいきなり先発を託されることはないと思います。僕がスカウトなら、まずリリーフとして使えるかどうかをチェックするはずです。となれば、最初はリリーフ、抑えでアピールするのもひとつの手。そこから徐々にイニングを伸ばし、最後は先発もできることを示すというプランも考えられます。

 今季の香川は、前川や野手に転向した加登脇卓真(元巨人)も含め、4人の元NPB選手が在籍します。しかし、アイランドリーグ出身の深沢和帆(元巨人)、伊藤秀範(元東京ヤクルト)は出遅れているのが現状です。深沢は昨年、左ヒジの手術を受け、リハビリ中。本格的な投球練習を始めるまでは今月いっぱいかかりそうです。伊藤も昨年までの蓄積疲労があるようで状態が上がっていません。ただ、NPBに戻る強い意志があるのなら、そろそろ第一歩を踏み出すことも必要です。若い選手同様、やるべきことはやってもらわなくてはいけませんし、レベルアップへ必要なことは徹底したいと考えています。

 現在、練習生も含め、チームには15人の投手がいます。連日、ブルペンは大盛況です。ベンチ入りをかけた競争が、これから1年間、続くことでしょう。今季のアイランドリーグは5球団に減少し、ジャパン・フューチャーベースボールリーグ(JFBL)との交流戦を加えた変則日程となるため、連戦が多くありません。そのため投手を1試合にどんどんつぎ込むことが可能です。実績があろうとなかろうと結果が出なければ、すぐに交代させられるかもしれません。ブルペンでも試合のマウンドでも、投手陣のサバイバルレースは激しくなることは間違いないでしょう。そんな中から1人でも2人でもスカウトの目に留まる選手が出てくることを期待しています。

 開幕戦は早速、JFBLの三重スリーアローズとの交流戦(4月4日)が組まれました。香川での開幕は4月10日です。球場での応援を、どうぞよろしくお願いします。


天野浩一(あまの・こういち)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
1979年4月12日、香川県出身。高松東高、四国学院大を経て2002年、ドラフト10巡目で広島に入団。2年目には貴重な中継ぎとして49試合に登板した。06年オフに自由契約となり、翌年、香川に入団。前期は先発、後期はリリーバーとして41試合に登板し、7勝6敗13セーブの好成績で最多セーブを獲得。リーグ優勝および独立リーグ日本一に大きく貢献した。08年はプレーイングコーチとして福井に入団。23試合に登板し、0勝2敗8セーブと主に抑えとして活躍した。09年は藤田平前監督の後任として福井の指揮を執った。現役時代(NPB)の通算成績は121試合、5勝6敗、防御率4.45。


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